ep44 逃避行 なつかしの我が家

カレルレンの言葉を聴きすぐにも助けに行こうとするフェイと、それを抑えようとするエリィはやがて口論になり、警備兵に見咎められてしまう。即座に逃げ出した二人はセキュリティに追われ、下水道に逃げ込んだ。下水道を抜けた先は第1級市民層だった。出口から歩くと程なくしてエリィの家に辿り着いた。


家に入ると母のメディーナが驚いた顔で出迎えた。エリィは行方不明と知らされていたのだ。

一通り言葉を交わした後、エリィたちは彼女の自室へ移動し一息ついた。シャワーを浴び落ち着いた所でフェイが彼女の母親の話題を振ると、エリィの顔が曇った。彼女には地上人の乳母がいた。自分の髪の色と外見がソラリス人のそれと違う事から、エリィは地上人の乳母が実の母親ではないかと思っていたのだ。


重くなった空気を振り払うように、彼女はバルトたちを救い出す手立てを考えようと提案した。

彼女は父の自室にある端末からソイレントシステムの情報が得られるかも知れないと考えた。

父親エーリッヒの部屋に移動した二人は、ネットワーク端末にエリィの名前を逆から入力したパスワード「MYYAHELE」でログイン。検索の結果第3級市民層のダストシュートからソイレントに入れる事を突き止めた。


その時エーリッヒとメディーナが部屋に入ってきた。自室にいるフェイを見たエーリッヒは部屋の電話で軍警に出動を要請し、フェイに銃を向けた。

「やめて! フェイは捕らえられた仲間を助けたいだけなの!」

「エリィ、反逆者がどうなるか知っているだろう?私はお前の身を案じて……

「嘘!お父様は自分の立場が危うくなるのが嫌なだけでしょう!?私のユーゲント入りを反対したのだって、地上人との間に生まれた私を皆に見せたくなかっただけじゃない!」

「お前はまだそんな事を……よく母さんの前でそんな……!」

言い合いを続ける2人をフェイが遮った。

「やめてくれ! 俺のせいで親子喧嘩なんて。俺がここから去ればいいだけだ。エリィ、お母さんの前であんな事言うもんじゃないよ。あの表情は決して他人の物なんかじゃない、そうだろ?」

そう言うとフェイは部屋から出ようとした。すると、突然エーリッヒが窓ガラスを銃で割った。

「たとえ侵入者であっても、娘を守ってくれた事は確かだ。侵入者は逃げた。それで良いだろう」

その場を去ろうとするフェイにエリィは同行しようとしたが、エーリッヒに止められた。

フェイも彼女を抑え、「今度こそ軍を抜けろよ」そう言って立ち去った。

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ep43 天上の楽園 ソラリス潜入!

ソラリスのゲートは本土にある発生機によって完全には消えていなかった。しかしながらその効力はかなり弱まっており、ゼプツェンのグラビトン砲でわずかにこじ開ける事ができるとの事だった。

その一瞬にフェイ、シタン、エリィの先発隊が侵入。他のメンバーは別ルートから侵入する事になった。


一度解散し皆が準備を整える中、シタンは妻ユイに会っていた。

「行くのですねソラリス

先に口を開いたのはユイだった。

「ええ。自分で決めた道です。もう、後戻りはできません

「傷付くわ。彼らも、あなたも

「そうですね。しかし、私には他に取るべき道を見つけられなかった

もしも私が、闇の想念に取り込まれてしまうようなことにでもなったら、その時には私はもう

「それ以上何も言わないで。承知しています。」

そう言うと、ユイは一本の刀を取り出した。

「さあ、これを。あなたの剣です。どうぞ、ご無事で!」

「あなたも。ミドリを頼みます。」

シタンは自ら封印した剣を、受け取った。

これからの戦いは負ける事が許されない戦いなのだ。そう自分に律し、シタンは妻と別れた。


その後、フェイたちはゼプツェンに乗ってソラリスに向かった。なぜかハマーも一緒に。

フェイたち三人が最初に降り立ったのは地上から上がってきた物資を集配する所のようだった。

とりあえず情報収集をする事になり輸送用のコンテナを調べていたフェイだったが、突然そのコンテナが動き出しどこかへ運ばれてしまった。

着いた先は居住区のような所だった。第3級市民層。通称働き蜂と呼ばれる地上人たちが住んでいる区域だ。

ここに住んでいるものはアレンジと呼ばれる洗脳を受け、昔の記憶もなくして奴隷のように働いていた。

後を追ってきたエリィと合流したフェイはとりあえずこの区画を出る事にした。シタンとはまだはぐれたままだったが、彼はこの街に詳しいためいずれ合流できるだろうとの事だった。


3級市民層と第2級市民層を繋ぐ唯一の通路、監視塔。二人はそのセキュリティをエリィのIDを使って抜けた。

そこでフェイはソラリス市民の生活を見ることになる。隅々まで清掃の行き届いた道。その道をホバーカーが走っている。市民は高度に発達した科学技術により病に悩まされる事もなく、何不自由なく暮らしていた。

戦に乱れる地上と比べると、まさしく天上の楽園といった趣である。

ホログラフで彩られた煌びやかな街を歩いていた二人は、アラボト広場で軍の観艦式が行われると知った。

ゲートの消失による動揺を抑えるために何らかの情報が提示される。そう考えた二人は広場に向かった。


空中戦艦が艦隊飛行を披露するなか、天帝が壇上に現れ市民に語りかけた。

「地上ゲートの消失は、前もって計画されていた事である。"福音の劫"に向け、我々は神の眠る地、"マハノン"への扉を開いたのだ。愚かなる獣ラムズに我らの力を知らしめようぞ」

天帝の演説を魅入られたように聞いていたエリィは、フェイに呼ばれて我に返った。

壇上では天帝の次にカレルレンが演説を始めた。

カレルレンを見て、フェイはデジャヴを覚えた。そして、彼の古い記憶が揺り起こされる。


500年前のニサンの大聖堂。そこでフェイ、いやラカンはカレルレンに会っていた。

絵の具を取りに帰るというラカンに、カレルレンは護衛を買って出たのだ。当時既にソラリスとの戦争が始まっていた。道中ラカンはカレルレンの変貌を語っていた。冷酷非情な軍人であったカレルレンはソフィアと出会う事で学問に目覚め、人としての心を取り戻したのだった。彼はメルキオールと言う師の下について、分子工学を研究していた。ある日彼は研究が結実したとラカンに嬉しそうに語ったのだった。


この記憶は明確にフェイが思い起こしたものではない。カレルレンの姿を目にした事により無意識下で呼び起こされ、それがフェイにはデジャヴのように感じられたのだった。

そのカレルレンの演説は続いていた。彼はエテメンアンキに侵入した地上人を捕らえたと言った。彼の傍に、別ルートで潜入していたバルトたちがホログラフで表示された。

「古のガゼルを蘇らせる為に、この者たちを明後日、ソイレントシステムにて処分する」

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ep42 暗き海の底 第三のゲート

ガゼルの法院がカレルレンと協議をしていた。

「ゲートの残りは一つ。このエテメンアンキの市民に動揺が広がっておる」

カレルレン「衆愚など天帝の言葉で何とでもなる。天帝の肉体も限界に来ているが、ダミーを使えばよい。それよりもメモリーキューブから面白い情報が得られた。あのラムズたちの中に""がいる」

「我らの""が他にもいると言うのか。なぜ今までそれに気づかなかった」

カレルレン「""の仮面<ペルソナ>は一定の年齢に達せねば現れん。そしてそれは"対存在"の可能性が高い」

"対存在"……。あのニサンの女のか……

カレルレン「確認の為に、ゼボイムから回収した"エメラダ"を使う。""が言うには、あのナノマシン群体は、ゼボイム時代の"接触""対存在"が創ったらしい」

""の記憶か……

カレルレン「うむ。何らかの反応が得られるはずだ。何も無くても、あれの調査は終わってる。もう必要ない」


三つのゲートはソラリスを中心に正三角形の頂点にそれぞれ配置されている。その情報とエリィ達ソラリス組の情報を総合して考えた結果、三つ目のゲートはイグニスの南の深海にある事がわかった。

海中と言えばタムズ。という事で、フェイたちはタムズの艦長の協力を得て第三のゲートへ向かった。


ゲート発生機の前には二機のギアが待っていた。グラーフがエメラダと呼ぶ少女が乗ったクレスケンスと、カレルレンの従者、人機融合を果たしたケンレンだった。

フェイたちに襲い掛かるクレスケンス。ケンレンはその成り行きを見守っていた。

やがて、エメラダが苦しみ始めた。インプリンティングの発露。ケンレンはそう確認し、その場を去った。

「その娘は進呈します。ご自由にお使い下さい。なにせあなたの""ですから」


ユグドラシルに戻るとエメラダは、フェイを「キム」と呼んでまとわり付いた。

「お、おい。俺の名前はフェイだ。キムじゃないぞ」

困惑するフェイにシタンは言った。

「この子にとって『キム』という言葉は単なる名前以上のモノらしいですね。

例えば、『おとうさん』みたいな?」

2人の会話を遮るようにエメラダは騒ぎ続ける。

「キム! ホントにいたんだ!ずっと夢の中の人かと思ってた!聞いてキム!あたしずっと昔の夢を見てたんだ。キムが今より大人で、あたしはなにか透明な筒の中にいてキムはふわふわした白いお菓子にローソクを立てて……。なにやってるのか解らなかったけど、あたしがここから出るのを楽しみにしてるって解った。でも、いつの間にか誰もいなくなって、体もなくなって、長い間一人きりで……もういなくならないでね、フェイのキム!」

「あ、あぁ

「ほんと?ホントにほんと?」

勢いに圧倒されるフェイ。エリィも場の雰囲気に呑まれ、ホントにほんとよと語りかけるも

「さっきからうるさいなぁ!だれ?おばさん?あたし、キムと話してるの!」

「おば!も、もう一回、海の底に沈めてこようかしら

その子のキムをやってあげたら?フェイのキム!!」

さすがに怒るエリィ。場を濁すようにフェイはエメラダに語りかけた。

「あのなんだ。そういえばお前、名前はあるのか?」

「あぁ〜!ひどいなぁ。フェイのキム!エメラダだよ、エメラダ!エメラルドの髪の毛だからってキムがつけてくれたんだよ!忘れちゃってんのぉ

「ああ、わかった、わかった。エメラダだな?わかったよ。エメラダ。今度はずっと一緒にいてやる。約束する。」

なんとかエメラダをなだめるフェイ。シタンはエメラダにあった情報が既にカレルレンの元に渡ったと睨み、次に行動を起こす前にソラリスの居場所を突き止めようと皆に話すのだった。

その頃、ユグドラシルにシェバトからソラリス発見の報が入っていた。ユグドラシルは一路シェバトに向かった。

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ep41 第二のゲート バベルの輝きは

翌日、王城の会議室にフェイたちが集まっていた。議題は第二のゲートについて。

『教会』の地下にあるゲートをどうやって破壊するかが話し合われていた。その結果、以下の作戦が立てられた。

碧玉要塞の強力なビーム砲。それを同じ文明が造ったものと思われるバベルタワーの鏡で反射させ『教会』の地下に撃ち込む。一見荒唐無稽に思えるが他に良案もなく、彼らはこの作戦を実行することになった。


その頃、ソラリスではラムサスとミァンがガゼルの法院の前に立たされていた。

ラムサスはガゼルからフェイたちとシェバトの接触を許した事を厳しく叱責されていた。

「塵め。ラムズたちはゲートに向かうはずだ。今度こそ、その"本来の力"見せてもらいたいものだ」

ガゼルの法院が消えると、ラムサスは艦に戻ろうとした。しかし先の戦闘の傷が癒えておらず、動ける状態ではない。見かねてエレメンツの四人が出撃を願い出た。敬愛するラムサスの名誉の為に。


バベルタワーにフェイ、エリィ、シタンの三人が来ていた。彼らはここで碧玉要塞から放たれたビームを反射させる鏡を操作するのだ。一方、他のメンバーは碧玉要塞で準備を開始していた。

その彼らにエレメンツが襲い掛かった。碧玉要塞には専用ギア、スカイギーン、グランガオンに乗ったトロネとセラフィータ。バベルタワーにはブレードガッシュ、マリンバッシャーに乗ったドミニアとケルビナ。

フェイたちはエレメンツを迎撃しつつ作戦を実行。第一射は外したものの、二射目は命中させた。

ゲートが破壊された事を知ったエレメンツは撤退。フェイたちは見事作戦を完遂した。

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ep40 第一のゲート マルーの祈り

アンドヴァリを要塞から出した後、彼らは法王府の議事堂に集まっていた。

王都の部隊は既に王城へ入ったとの事だった。王都からの情報では、ニサンの西の大洞窟にゲートがあり、そこにシャーカーンが向かったと言う。バルトたちはすぐさまその洞窟へ急行した。


洞窟の奥には大きな扉があり、それを開いてさらに進むと巨大な空洞の中に造られたゲート発生装置があった。

その前でシャーカーンが待っていた。バルト達が臨戦態勢を取った時、どこからともなくグラーフが現れ、以前と同じように

「我が拳は神の息吹。"堕ちたる種子"を開花させ、秘めたる力を紡ぎだす。美しき滅びの母の力を」

と言ってシャーカーンに力を与え去っていった。

新たな力を得て、さらにゲートのエネルギーをも吸収したシャーカーンの攻撃は苛烈を極めたが、バルトにはアンドヴァリがあった。アヴェの危機を救うと言う伝説のギア・バーラーによってシャーカーンは討たれた。


アヴェ国民の歓呼の中、バルトは頼まれ事を果たすと言い王城のバルコニーに立った。


「アヴェ国民諸君、私は第18代アヴェ国王エドバルト4世の息子、バルトロメイ・ファティマ。第19代アヴェ国王である。

やむをえぬ状況の下、長年王城を離れ国民諸君には苦労をかけた事をまずは謝罪したい。

キスレブとの戦役で家族を亡くされた方々には特に申し訳なく思っている。

まずは早急にキスレブとの間に休戦をなし、両国犠牲者の補償を開始する。

徴兵され各地に派遣された市民もいずれ家族の元に帰ることができる。力を合わせてアヴェの復興を成し遂げよう。


もう一つ重大な知らせがある。

誰よりもアヴェの平和を願った前王エドバルト4世の遺志によって宣言する。

第19代アヴェ国王、バルトロメイ・ファティマの命により……

本日をもって王制を廃し、アヴェ全土を共和国家とする!」


突然の宣言に驚きを隠せないシグルドとメイソンは、バルトに理由を問いかけた

「これが、俺が親父から受けた遺言だ。二人とも、俺の王位の為に長年頑張ってくれてたのにゴメンな。俺はもう主でもなんでもない。お前達は自由だぜ。」

「甘いな。窓の外の大歓声が聞こえないか?民衆が新しい当主に選ぶのは君だ。今まで以上に忙しくなるぞ。

頭の切れる補佐が、必要なんじゃないのか?」

「そうだな雇ってやっても、いいな。」


その夜。バルトはメイソン卿に会いに行った。

「シグルドは、どういう生まれだ?あいつの目はブルー。ファティマの碧玉だ。」

するとメイソン卿は語った。先王はバルトの母親と知り合う以前に別の女性と恋仲にあったが、その女性はある日突然姿を消した。噂ではその後子供を生んだ、と。

「姿を消した?親父が捨てたのか?」

「いえ、私の知る限りでは、逆に陛下の方が捨てられたという事でした。」

「シグはアヴェ東方の砂漠の出だ。」

「いかにも。10歳の時にエドバルド陛下付きの騎士見習いに上がられたのでしたな。」


その話を聞いた後、バルトはシグルドに会いに行った。

彼の母親は自分が短命であるのを知り、死に別れることを恐れて当時の恋人の下を去ったのだと言う。シグルドが生まれた事は父親には知らされなかった。

「なぜ親父さんに言ってやらなかったんだ?自分は息子だ、って。」

「母が隠したかったのなら、そうしておきたかったのです。」

「今日の宣言にあった親父の遺言には続きがあるんだ。お前が得た物は、兄と分かち合いなさい。お前と兄の得たものは、全ての民と分かち合いなさい……ってさ。

ずっと、なんの事なんだか不思議だった。それを言っておきたくってさ。じゃ、おやすみ!」

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ep39 砂漠の王 守れ、ニサンの微笑み

シェバトの技術によって飛行ユニットを取り付け飛行機能を得たユグドラシルは、ユグドラシル3世と名乗る事になった。

そのユグドラシルでニサンに向かったフェイたちは、法王府の街中に駐留していたシャーカーンの兵を一掃し街を開放した。だが街に住民の姿はなく、修道院にシスターが残っているのみだった。


そのシスターたちのまとめ役であるアグネスに、フェイたちはこれまでの事情を聞く事になった。

以前バルトたちが出発してから町の住民の大半が歴代のアヴェ国王と大教母が祭られている大霊廟に避難したのだが、シャーカーンはその大霊廟にあるファティマの至宝を狙っているとのことだった。

アグネスは彼が大霊廟の封印をマルーの母である前大教母の亡骸を使って解こうとしていると伝えた。

バルトの話によるとファティマの碧玉とはアヴェとニサンの王家の血筋の者の網膜の事であり、大霊廟の入り口は網膜パターンを照合する事で開くという。シャーカーンは遺体の網膜を使うつもりなのだ。

人質を取られてやむなく喋ってしまったと謝るアグネスをなだめ、バルトはすぐにも霊廟へ向かおうとした。

そこにシグルドが提案をした。ニサン侵攻で手薄になったブレイダブリクを別部隊が攻め、奪還する事でシャーカーンの逃げ場を奪うと言うのだ。それをバルトは了承。作戦は即座に開始された。


バルトたちは修道院の北にあると言う霊廟へマルーを伴って向かった。

入り口から長い階段をくだり大きな広間に出ると、そこには避難していた住民たちがいた。

バルトは彼らに街は開放され王都も間もなく奪還されると伝え、街へと帰した。


住民らが立ち去った後バルトたちは広間の壁際に祭られた墓を調べたが、荒らされた形跡は無かった。

シャーカーンの手が伸びる前にと、彼らは広間中央のエレベーターからさらに地下に降りた。

エレベーターで降りた先はまるで軍事要塞のように近代的だった。薄暗い廊下を進んでいくと、閉ざされた扉の前にコンソールがある部屋に行き当たった。そのコンソールが網膜パターンの読取装置だった。

片目が潰れているバルトに代わり、マルーが瞳を読み取らせた。開いた扉の先に進みエレベーターでさらに下層に下りた彼らは、また読取装置に行き当たった。

開錠された扉の先は広大な格納庫になっており、そこにギア・バーラー、E・アンドヴァリはあった。

ついに至宝を発見した彼らは次にアンドヴァリを地上に出す方法を探した。すると格納庫とは別の区画にブリッヂらしき所を発見。早速コンソールを操作してみると、建物は大地を割って空へと浮かび上がった。

この要塞の望遠カメラははるか遠くバベルタワーまでスクリーンに鮮明に映し出した。気を良くしたバルトはアンドヴァリを出すため天井を開けようとした。

「ん?あれ?」

不安な声を出し始めたバルト。不吉な予感がしたフェイがどうした、と声をかけるも

「え?あ、いや、なんか動いてるから。」

とさらに不安になる事しか言わない。あなたが動かしてるんでしょ?とエリィも問うも

「い、いや違うんだよ。そうじゃなくて。」

「なんか押すとこ間違えた。」

そう言い終えると同時に、突如ビーム砲が発射された!!

「よーし成功!!」

「「「どこがぁ〜!!」」」

「へ?何のこと!?」

うまいこと誤魔化そうとするバルトに、フェイはとぼけるな!一体何を動かしたんだ!?と問いかけるも

まぁ確かに完璧な操作とは言えなかったかもしれないが。ま、大丈夫だろ!」

と悪びれる様子のないバルト。

フェイたちの冷たい視線をかわすように碧玉要塞とこの要塞を名付け、バルトは改めて天井を開けようとした。

「さあ、さっさと至宝を持って帰るぞ!その為にはこの天葢のドアを開けないとな!こっちの操作パネルではないという事はあっちだ!

うーん、同じようなスイッチがいくつか並んでるなぁ。ま、いいや。テキトーに押しちまえ!」

「おいおい!本当に大丈夫か!?」

さすがに心配するフェイ。しかし今度こそ、無事に天井は開いていった。


すると、それを待っていたかのように天井からシャーカーンが従者と共にギアで侵入してきた。

シャーカーンはバルトたちがこの要塞の封印を解くのを待っていたのだ。

バルトは歯噛みし、侵入してきた兵を蹴散らしながら格納庫に向かった。彼らは格納庫前の通路でシャーカーンと対峙したが、兵に囲まれ身動きが出来なくなってしまう。その中で兵の一瞬の隙を付いてマルーが包囲を脱出、格納庫へと向かった。

シャーカーンがマルーを追って行った時、シグルドとシタンが現れた。王都奪還を他の者に任せ加勢に来たのだ。

彼らの力を借りて兵を一蹴し格納庫へ向かったバルトたちだったが、扉がロックされてしまい片目のバルトでは扉を開ける事が出来ない。焦るバルトをいなし、シグルドが自分の片目を読み込ませロックを解除した。

その事に疑問を持つ間もなく格納庫に向かったバルトは、アンドヴァリに乗って応戦するマルーを見た。

銃弾が飛び交う中アンドヴァリに乗り込んだ彼は傷ついたマルーと操縦を交代、敵機を撃破した。

彼の戦いぶりに劣勢を感じたシャーカーンは、あっさりとその場を離脱した。


マルーの手当ての為にシャーカーン追撃を諦め、バルトは気を失った彼女をギアから下ろした。

彼女に応急処置を施しながら、シタンはこのギア・バーラーが搭乗者の精神波と同調して動くのではないかと推測した。マルーがこの機を動かせたのも、バルトの力になろうと言う彼女の必死な思いがあったこその事だったのだ。

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ep38 シェバト襲撃! 父の遺産

ソラリスの軍勢はシェバトのゲートの出力が落ちた隙を付き、ジェネレーターの四つの親機を狙っている。

女王の間に集まったフェイたちは戦闘経験のないシェバトの兵に代わって迎撃に向かうことになった。

ソラリス軍の情報を整理していたシタンは、正体不明の大型ギアの存在に気が付いた。そのギアがスクリーンに映し出されると、マリアが声を上げた。ゼプツェンの二号機にあたるアハツェンだった。設計図は父が燃やしたはずと困惑する彼女は、そのアハツェンから父ニコラの声が流れた事でさらに動揺した。

「ネズミどもが逃げ込んだらしいな。ちょうど良い。シェバトごと叩き潰してくれる!」

動揺するマリアを女王が一喝し、シタンは作戦を全員に伝えた。四つのジェネレーターを各個に防衛するのだ。

即座に迎撃に出たフェイたちは、獅子奮迅の活躍で侵攻部隊を退けた。

しかし、アハツェンから放たれた対ギア用サイコ・ジャマーを受け、フェイたちのギアは沈黙してしまう。


この事態に際し女王の間に残っていたシタンはマリアにゼプツェンで出撃するよう頼んだ。アハツェンの兄弟機であるゼプツェンならジャマーに対するシールが搭載されているはずだ、と考えたのだ。

しかし、父と戦う事はできないと彼女はそれを拒んだ。

すると、なぜか付いてきていたチュチュが迎撃に出ると言う。制止も聞かず出て行くチュチュ。

後を追ってバルコニーに出たマリアはチュチュが巨大化する現場を目撃してしまう。

巨大化したチュチュはアハツェン相手に善戦。しかしアハツェンの主砲に打ちのめされてしまう。

それを呆然と見ているマリアの所にミドリが現れた。

「ミドリちゃん!ダメよ、こんな所にいちゃ!!危ないから中に

「呼んでる……、お父さん……

その言葉にアハツェンを見つめるマリア。

「ううん。違う。あそこにいる悪いヤツじゃ、ない

そう言うと、ミドリは格納庫の方を指した。

……!ゼプツェン!!」

彼女は走り出した。格納庫へ駆け込んだマリアはゼプツェンを発進させた。


アハツェンと対峙するマリア。その彼女にニコラが語りかける。

「マリア、私と共に来い。愚かな者と滅びる事はない。これからはずっと一緒にいてあげるよ」

ニコラの呼びかけにひるむマリア。しかしゼプツェンがアハツェンを攻撃した。それを見たマリアは決断した。

アハツェン!あなたを倒します!!ゼプツェン、行きます!」

超重量級のバトルを繰り広げるゼプツェンとアハツェン。やがて再びニコラが語りかけた。

「マリア聞こえるか?今から遠隔操作でゼプツェンのグラビトン砲の封印を外す!それで私を倒すんだ。」

「!!お父さん!正気に戻ったの!?だめ、できません!グラビトン砲は、その破壊力ゆえにお父さん自身が封印されたのではないのですか。そんなの使ったら、お父さんは。」

突然正気を取り戻した父に驚くマリア。

「構わん!撃て!ニコラはもういない。ソラリスの洗脳を受ける前にアハツェンにはゼプツェンと共鳴して作動する良心回路を組み込んでおいた。このメッセージは、そこからのものだ。それに、戦闘中にそちらのゼプツェンに私のデータは全て転送した。体は失っても、心はゼプツェン、いやマリア、お前と共にある。これからもずっとな。」

だめ、私には、できません!!」

マリアの意思とは逆に、ゼプツェンはグラビトン砲の発射準備を始めた。

「ゼプツェン!やめて。制御できない!お父さんが動かしているの!?お願い、撃たせないで!!」

ゼプツェンのグラビトン砲が発動した。それを避けもせずに受け、アハツェンは消滅した。

お父さーーーん!!」


ソラリスの侵攻が落ち着いた頃、フェイたちは女王の間に集まっていた。

真の自由を得るためソラリスを倒すと心に決めた彼らに、女王はソラリスが三つのゲートによって隠されている事を教え、そのゲートを取り除かなければソラリスにはいけないと語った。

ゲートの一つは『教会』本部の地下、ギアでも潜れない深さにあり、他の二つは場所が分からないと言う。

さらに女王は、アヴェ軍がニサンに侵攻したという情報を伝えた。目的はニサンに眠るファティマの至宝、つまりバルトの先祖、ロニ・ファティマの残したギア・バーラー。

それを聞いてバルトは憤慨し、すぐにニサンへ向かおうと提案。フェイ達もそれに同意した。

意気込んでいるフェイ達に、マリアが声を掛けてきた。

「あのうわたしもあなた方と一緒に連れて行ってもらえませんか?もう、じっと待っているのはイヤなんです。動きたいんです、私も。ゼプツェンも!」

女王もマリアに生きる理由を自分で勝ち取れ、と後押しした。フェイ達はこれを快く受け入れ、マリアは一行と行動を共にする事にした。


出発前、フェイ達はワイズマンの師であるガスパールに教えを受け、新たな力を身につけた。

ガスパールは女王に会うと、私はあの愚行を繰り返さぬように監視に来たのです、そう語った。

その頃、ドックで異変が起こっていた。地下にあるギア・バーラーがエリィと同調して起動したのだ。

それを聞いた女王とガスパールは、やはりと頷いた。それを受けて傍にいたワイズマンが言った。

「しかし、あの娘は乗ろうとはしない。無意識に気づいてるのです、わが身に内在する存在に」

「彼女も……ソフィアもそうだったのでしょうか…………すみません」

「いえ、私は""そのものではありませんから……

こうしてフェイたちは、マリアを新たな戦力に加え、ニサンへ向かった。

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