epEX ゾハルとデウスと波動存在
西暦20XX年の地球、40億年程前の地層から後にゾハルと呼ばれる明らかに人工的な物体が発掘された。
解析の結果それは約150億年前、すなわち宇宙誕生の瞬間には既に存在していたことが分かった。
このありえない結果を受け、ゾハルの研究は一時凍結。研究再開には5000年の時を要した。
その間人類は宇宙への進出を続け、2500年ごろには宇宙への移民計画が発動された。
計画により年号が西暦からT.C.に改められてからおよそ300年後、人類は移民可能な惑星を見つけ、そこを新たな母星とすることに。
それからおよそ4500年後、各宙域で紛争が起こる星間戦争時代。
5000年の放置の後、再開された研究によりゾハルによって事象変異が引き起こされることが分かり、それを有効利用すべく研究する「プロジェクト・ゾハル」が立ち上がる。
やがて制御システムである生体電脳カドモニとの連結によって制御が可能になったゾハルは、無限のエネルギーを生み出す事象変異機関としてかねてより激化していた紛争を解決すべく開発中であった生体兵器デウスの動力源として組み込まれ、星間戦略兵器デウスシステムが誕生した。
しかしながらその起動実験の際、デウスシステムは原因不明の暴走を起こし、周辺宙域のコロニーに次々と侵攻。軍により強制停止される。
その後デウスシステムは凍結されたまま、原因調査のために恒星間移民船エルドリッジに収容された。
デウスシステムによって被害を受けたコロニーの住民らも収容して出航したエルドリッジだったが、デウスシステムの突然の再起動によって船は制御を奪われ、本星(地球)へとワープを始める。
エルドリッジの艦長はそれを阻止するべく自爆を決断。実行する。
ワープ中に自爆したエルドリッジはどことも知れぬ宙域に投げ出され、とある惑星へと墜落していった。
デウスシステムは実質的な攻撃兵器であるデウス、動力源であるゾハル、ゾハルを制御する
生体電脳カドモニの三つの要素で構成されているのだが、このカドモニに予期せぬトラブルが
起こったことが全ての始まり。
ゾハルとデウスの連結実験の最中にゾハルの発するエネルギーのためか、はたまた事象変異と言う現象自体が原因なのか、次元の境目に歪みが生じ、三次元世界よりもっと高位の次元との通路のようなものが開いてしまった。
高次元から降臨した波のような存在、波動存在は三次元世界では物質化できないためにカドモニのメインフレームである生体素子ペルソナを一時的な拠り代とした。
さらにその時、試験場になぜか偶然アベルと言う少年が紛れ込んでいた。
三次元世界に降臨して間もなく、定義付けがなされていなかった波動存在はアベル少年の回帰願望を感じ取って母親と定義付けられ、生体素子ペルソナを女性の姿に進化させてオリジナル・エレハイムを作り出した。
アベルの定義付けによって三次元世界において物質の檻に閉じ込められてしまった波動存在は高次元への回帰を願い、肉体であるデウスを破壊し自身を解放する接触者としてアベルを運命付ける。
その運命によりアベルは肉体が滅んでも魂に記憶が刻まれ転生を繰り返す事になった。
その後エルドリッジの墜落により多くの構成物質を失ったデウスシステムは自身を復旧させる計画を実行する。
復旧に必要なものは生体兵器であるデウスの部品を構成するための生体。
墜落時に各地に散らばったカドモニの部品であるアニマ。
まずデウスシステムは生体素子ペルソナから始祖の女性ミァン・ハッワーを作った。
ミァン・ハッワーはカドモニの構成部品アニムスから始祖の人間天帝カインと12人のガゼルの法院を作り、その後人間の管理者として自らの分身エレハイムとミァンを作った。
カインとガゼルの法院はデウスの部品としてのヒトの原型を量産し、以後ヒトは進化を続けながら増えていく。
《オリジナル・エレハイムとミァン・ハッワーとエレハイムとミァン》
アベルによって波動存在が定義づけられ、結果オリジナル・エレハイムが出来た。
ミァン・ハッワーとは、オリジナル・エレハイムがカドモニのプログラム「SystemHAWWA」によって変容した時の名称であり、基本的にオリジナル・エレハイムと同一人物。
ミァン・ハッワーが分化した片割れのエレハイムは、波動存在の(より正確に言うならば、アベルの意思を受けとった波動存在の)意思によって母としての役割を持って生み出された。
もう片一方のミァンは、純粋に管理者としての役割を持って生み出された。
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ep57 全ての始まりにして終わりなる者
シェバトに集まったフェイたちは、エリィ救出の為のメルカバー攻略の作戦を立て実行した。
戦艦エクスカリバー。シェバトに残されていたこの先史文明の戦艦を特攻させ、彼らはメルカバーを撃墜した。
ところが墜落したメルカバーから巨大な物体が姿を現した。それはメルカバーを覆い尽くすほど巨大に成長したデウスの最終形態だった。ナノマシンの力によって惑星と同化し始めたデウスから強力な衝撃波が放たれ、一つの大陸が灰燼と帰した。デウスの端末兵器による破壊、殺戮、デウス自身の攻撃。人類は既に絶滅寸前だった。
フェイたちに残された時間は少なかった。彼らは僅かに生き残った人々の最後の砦となっている墜落したシェバトに戻り、態勢を立て直す事にした。
シェバトにはメルカバーから前後不覚のまま救い出されたラムサスがいた。今は敵味方といった関係を越えて協力せねばならない時だ、とシタンが声を掛けるも、自分は塵だとしか言わないラムサス。
「甘ったれた事を言うんじゃないっ!!」
シタンが声を荒げ、ラムサスを殴りつけた。その後シタンはラムサスに、誰よりもあなたの真実の姿を知っているからいまだラムサスの元を離れないエレメンツの娘達の事を考えろ、と。それにあなただって塵ではない。それは私達が1番よく知っている、と励ました。
「俺の…俺の求めていたものがこんなに近くにあったなんて…それに気付かずに、俺は…
すまぬ…」
シタンとエレメンツの娘達に胸打たれ、ようやく自分を取り戻したラムサス。彼らは戦線に加わり、最後の戦場へと向かった。
巨大な構造体となったデウスに侵入したフェイたちは、襲い掛かる端末兵器を蹴散らしながら迷宮と化した内部を抜け最奥部へと到達した。そこにはエネルギーの繭に包まれたデウス本体がいた。
最後の戦い。エリィが最後に乗っていたギア・パーラーが異形化したデウスは、無限にエネルギーを生み出すゾハルの力を使い激しく攻め立てた。それに対抗しうるのは同じゾハルの力を得たゼノギアスだけだった。
フェイは仲間達のサポート受けついにデウスを、そしてゾハルを打ち砕いた。
ゾハルの破壊。それによってゼノギアス以外のギアは機能を停止した。
そんな中デウスの中心に巨大なエネルギーが観測された。それは開放された波動存在が高次元へとシフトする為に起こったものだった。そのエネルギーは凄まじく、反動で惑星が消滅しかねなかった。
フェイたちがなす術もなく見守る中、デウスが上昇を始めた。フェイは気づいた。エリィがデウスを安全圏まで移動させようとしているのだと。エリィはまたしても自らを犠牲にしようとしていたのだ。
もうエリィを失いたくない。その一心でフェイはデウスの後を追った。
デウス内部に突入したフェイ。そこでは高次元への道、『セフィロートの道』が開かれつつあった。そこでフェイはカレルレンと対峙した。静かに眠るエリィとその前に立ちはだかるカレルレン。
カレルレンは静かに語り出した。
「セフィロートの道は繋がった。神の旅立ちは最早誰にもとめることは出来ない。今更何をしに来たんだ?ラカン。」
「俺は愛する人を取り戻す為にここに来た!エリィを放せ!デウスのシステムは破壊した。全ては終わったんだ!だのに、お前はまだ何をしようというんだ!」
「全てが始まったあの刻。全てが一つだったあの場所へと還るのだ。
宇宙の始まり以前、高次元の波動の場において、全ては一つだった。そこから波動がこぼれ落ちることによってこの四次元宇宙が創られたのだ。
そこから生まれたヒトもヒトの魂も、こぼれ落ちた波動の残りかすなのだ。だから……」
「そこへ還るというのか?それがお前の望んでいたことなのか?」
「ラカン……。何故そうまで頑なに神との合一を拒む。くだらん現世に何の未練がある?他人を傷つけ、自分を傷つけ、互いを削りながら短い生を全うして土に還ることになんの意味がある?
ここには全てがある。愛に思い悩むこともない。ここには神の愛が満ちている。」
「俺は、お前ほど人に対して絶望してはいない!人にはいつか解り合える時がくる!俺はそう信じている!」
「何故そう言いきれる?ヒトとヒトとは、決して解り合うことはない。
お前は彼女を愛していると言った。だがそれは本当に解り合っているといえるのか?
所詮ヒトは、お互いにとって都合のいいように距離を置き、仮初めのそれを、相互理解、精神の合一、真実の愛と偽っているにすぎない。
ヒトは自らをあざむく事によってしか、他人と交わることができないのだよ。そう創られているのだから……。」
「だからといって、たった一人のエゴが、全ての人の運命を決めていいはずがない!人には自分の運命を自分で決める権利がある!自由な意志があるんだ!」
「その意志すらも、事前にとり決められたもので
あったとしたらどうする?
創られた始原生物であるヒトに自由意志などというものはない……。ただ“そのように”“そうなるように”不完全な状態のまま、生かされているだけなのだ……。
それ故に、なまじ意志などというものがあるが故に、ヒトは悲しみとそう失を経験しなければならない……誰かが何かを得るということは別の誰かが何かを失うことなのだ……
限られた“モノ”と“想い”は共有することはかなわない……だから私は、全てを最初の時点に戻そうと結論した。
波動という、それ以外何もない、一つの存在であったあの刻に……。これは私<ヒト>のエゴではない。波動<神>の意志なのだ……。
「それでもいいさ……。不完全でも構わない。いや、不完全だからこそ、お互い欠けている何かを補いあい生きていく……それが人だ……。
それが解り合うということなんだ!俺はそんな人であることに喜びを感じている!
エリィは、そう選択した俺達に未来<あした>をたくして、今こうやって、俺達の星からデウスを遠ざけようとしてくれている。
そしてまた、たった独りで、神と旅立とうとしているお前の心を癒そうと……。
そのエリィの気持ちが、お前には解らないのか!?神と一つにならなければ、それが解らないのか?俺には解る……わが身のようにエリィの想いが……。
……そう、俺達は一つなんだ!神の力なんか借りなくても!!」
「ならばそれを私に見せてくれ。神の下から巣立とうと言うお前達ヒトの力<愛>を……。」
彼の言葉を聞いていたカレルレンはウロボロスをフェイにけしかけた。それは人が神の下から巣立つために人の力<愛>を試す最後の試練だった。フェイがそれに打ち勝つのを見届けて、カレルレンはエリィを開放した。
「フェイ……私を解放してくれたのは、カレルレン……。
カレルレンと一つになって解ったの。彼の心は悲しみに満ちていた。だから彼は私との、神との合一を願った。それがすべての原点への回帰だったから。彼が言ってくれたの。あなたと一緒に居るべきだって、そう言ってくれたの…。彼は解っていたわ。私の想いも、あなたの想いも。
でも、どうしようもなかった。人であることを、全ての想いを捨ててでも、彼は前に進むしかなかった。全ての人の為に…。
決して後戻りは出来なかった。振り返れば、そこは思い出で一杯の場所だから。そこに…、還りたくなってしまうから…。
だから、彼を赦してあげて……。カレルレンは誰よりも人を愛していたのだから……。
「そんなこと……そんなこと、はじめから解っていたさ。あいつがそういう奴だって事ぐらい……。」
「……ごめんなさい……。私は間違っていたのね。私は、自分を犠牲にしてでも、他人を救うのが正しいことだと思っていた。
でも、私の行為は、遺されたあなた達の心の中に悲しみを遺すだけだった。その悲しみが新たな悲しみを生んでしまった。
私という存在があなた達の中にも生きている以上、私の命は私だけのものじゃない。」
「エリィ……それは間違いなんかじゃないよ。誰かの為に、自分をささげるのは尊いことだ。それがたとえ自分の為であったとしてもそんなことは問題じゃない。
そこには必ず、癒されている人が存在するのだから……。愛は、与える者と受ける者、二つの関係があってはじめて本来のかがやきを成すもの。どちらが欠けても不完全…。二つは一つ。そう、教えてくれたのはエリィじゃないか。
それが人であることの意義なんだと俺は思う。今の俺にはその大切さが理解出来る。
正しい答えなのかどうかはわからない…。でも、そのことについて考える時間はたくさんあるよ。
カレルレンが見つけようとしていたもの……答えは……俺達が見つけよう。」
「ありがとう……フェイ。」
「還ろう、僕らの星に。」
次元シフトが始まり出した。フェイ達が駆ける中、そこにはカレルレンの寂しそうな背中があった。
「カレルレン……お前。」
『もう時間がない。ここもじきに消滅する。
これで神はいなくなる。この星は人の惑星……自らの足で歩むお前達の故郷だ。』
「カレルレン……行けないのか?」
『ああ……私はあの時を境にして、人としての道を失った……。多くの禁を犯した……もはや人として生きることは許されまい。私を許してくれるのは神のみなんだよ。』
「そんなことはない!きっとみんなだって解ってくれるさ。罪滅ぼしの時間だってたくさんある。お前にならそれが出来るよ。」
『相変わらず優しいんだな、ラカン。……きっとそれが人であることの意義なんだろうな。だが行けないよ。もう決めたことなんだ。……私は神と歩む。それに、たとえ還ったところで……私の居場所など……。
…そろそろ行くよ。』
「カレルレン……。」
『お前達が羨ましいよ……。』
カレルレンは最後にそう呟いた。それは今まで自分を偽ってきた男が漏らした『人』としての本音だった。
そしてカレルレンは神と共に歩む道を選んだ。人には持ち得ない両翼の翼を広げて。
彼の後ろ姿を見送って、フェイとエリィは自分達の世界へ向かった。
デウスの次元シフトの余波が広がる中、二人の乗ったゼノギアスは、仲間たちの待つ地上に舞い降りていった。
FIN
ep56 堕ちた星 めざめよと呼ぶ声あり
ゾハルの眠る地下空洞で彼らが見たのは、ゾハルの影響を受けて異形と化したヴェルトールだった。
襲い掛かってくるヴェルトールに突如現れたワイズマンのギアが応戦した。
「ふん。また貴様か。いちいち邪魔をする。だが、貴様に俺を止めることは出来ん。自らの妻も、息子も守れなかった貴様にはな!息子に会わせる顔がないからそんな面を被っていたのだろう?カーン!
残念だったな。貴様によって生み出された新しい人格のフェイ…。それによって、俺達を完全な一個の人格とすべく度々導いていたようだが、それも徒労に終わる。あいつはもうじき俺にのみ込まれる。」
「そうはさせん!その前にお前を消滅させる!」
「ふぬけの貴様に出来るものかっ!貴様がふがいない所為で母は死に!奴は思い出の中に逃げ込んだ!俺は全ての嫌なものを背負わされ存在し続けた!それが貴様に解るか!」
「私はただ導いていたわけではないっ!私やお前の感じた想い、悲しみ、憎しみ……そういったものを経験しても、フェイは自らを築きあげようとしていた。今のフェイにならば、お前の想いが理解できるはずだ。その理解者を、フェイをも消滅させ、お前は何を望むっ!」
「今更何を尋く!!俺の目的は“奴”と同じ滅尽滅相!ただひとつ!!」
「それ程憎いかこの世界が…。お前の中には憎しみしか存在しないというのか!」
「それを創り出したのは貴様とあの女だっ!!白々しいぞっ!!」
「……くっ…。聴こえるか?フェイ!私が打ち込む想いの拳、受け取めてくれっ!そして一つとなれっ!」
「ここは…?」
フェイは夢を見ていた。そこには何故かイドがいた。
「…余計な事を。自分のためだけに呼び込んだか……。ここは基礎人格の殻の内部、“臆病者”の部屋さ。お前も何度か来ているはずだ。」
フェイとイドの他に『もう1人』フェイがいた。彼は塞ぎ込んでいた。その“臆病者”を指して、イドは語る。
「そいつが嫌なもの、望まぬものすべてを俺に押しつけて、自分の殻に閉じこもった“臆病者”『フェイ』。俺達の基となった人格だ。」
しばらくすると“臆病者”は顔を上げ、2人に話しかけた。
「君は誰?…そうか。君は僕の……
ねぇ、君も一緒に観ようよ。僕の大切な、宝物なんだ……」
そう言いながら“臆病者”は母親と楽しそうに過ごしているイメージを2人に見せ始めた。
「ふん、そうやって何度も何度も幸せに満ちあふれた時を再生し、その中で生きているんだ。そいつは。そしてこの俺が生きることが出来るのは、その残りカスの中だけさ。
お前にも見せてやるよ……俺の“全て”を。」
最初は幸せな家庭だった。しかしある日突然母カレンがミァンとして覚醒した。それは単なる偶然であったかもしれない。フェイにとっては不幸な偶然。息子が接触者だと気づいたミァンは少年を研究施設に連れ込み、様々な実験をした。そのことを父に訴えても仕事に忙しい父は取り合わなかった。
やがてフェイは実験の苦痛に耐えるため新たな人格イドを生み出して苦痛を肩代わりさせ、フェイ自身は幸せだった頃の思い出に閉じこもった。
そして運命の日。家族の下にグラーフが現れた。それはミァンが呼んだものだった。彼女は完全なる神の復活の為、過去に分かたれた接触者の肉体と精神との合一を望んでいたのだ。
グラーフに触発されたフェイの力は暴走した。その力の奔流は制御できぬままカレンを貫いた。
フェイはその事をもイドに押し付け、イドは母殺しの十字架まで背負わなければならなくなったのだ。
「そいつは、いやなものすべてを俺に押し付け、そして母の愛、幸福に満ちた思い出だけ独り占めにした。そしてそれら思い出と共に永遠に自分の殻の中に閉じこもったんだ。その場所がここさ。俺達の目の前にあるこの光景は、そいつが作り出したものだ。思い出にしがみついているだけだ。」
2人の前に、フェイが母親と楽しそうに過ごしているイメージが何度も繰り返し映し出される。
「やめろ!もうやめてくれっ!これが、こんな光景が俺達の全てなのか?あんまりだっ!ここには何もない!こんな偽りと苦痛だらけの世界が…」
「仕方ないさ。これが俺達の世界<すべて>なんだから……。」
イドが現実に目を向けた。対峙しているカーンとイド。
「私が愚かだった。全ては私の責任だ。シェバトからの責務に忙殺され、カレンの変化に気付かなかった。助けを求めていたお前を救うことが出来なかった。」
「救うだと!?今さら何を!もはや何も変えられはしない。貴様に出来ることは、この俺によって葬り去られることだけだっ!」
「そ……それでも、私は……お前を、救ってみせる。」
それを外側から見ているフェイにはどうしようもできなかった。
「親父っ!!止めろっ! イド!親父には何の罪もない!」
「知ってるよ。本当に悪いのは臆病者のこいつだ。母も父もキッカケに過ぎない。」
語る2人に、臆病者がイメージを返してくれ、母さんと遊ぶんだと声を掛けてきた。殻に閉じ篭ろうとする臆病者にフェイは言った。
「こんなものは……現実じゃない!!嘘だ!偽りだ!まやかしだ!!みんな、みんな、みんな……」
すると臆病者は途端に声を荒げ始めた。
「いやだっ!出てって!ここは僕の部屋なんだっ!君なら僕と一緒にいつまでも居てくれると思ったのに!」
「何故現実を見ようとしないんだ!楽しかったことも、辛かったことも、それは全部合わせて一つのものじゃないか!何故見せてやらないっ!?君がいつも見ているものをイドにも!」
「いやだっ!あれは僕のものだっ!母さんを殺したやつなんかに見せるのはいやだっ!」
まだイドに責任を押し付けようとする臆病者。イドの心は冷め切っていた。
「よくいうぜ。殺したのはお前じゃないか?」
「違うっ!僕は殺してないっ!母さんを殺したのはお前だっ!僕は母さんを殺してなんかないっ!母さんが振り向いてくれなかったから、父さんが気付いてくれなかったから、だからお前は母さんを…。だから僕は殺してなんかないっ!殺してなんかないっ!殺して……」
臆病者は話を聞こうとすらしなかった。フェイはそんな臆病者を諭すように言った。
「いいかげんにするんだっ!!
…母さんを殺してしまったのは“俺達”だよ。誰のせいでもない。母さんがミァンになったからでも、父さんが気付いてくれなかったからでもない。
原因を外に求めてはだめだよ。責任を自分以外に押しつけちゃだめだ。たしかに母さんはミァンだったかも知れない。君が体験した日々が辛かったこともわかる。誰だって耐えられないよ。
だけど、だからってそれをイド一人に押しつけてはだめだ!俺達はみんなで一人なんだ。俺達は一つにならなきゃいけないんだ。そうだろう?
…さあ、自分の足で歩くんだ。見たくない現実に目を向けるんだ。イドに見せてあげるんだ。君が独り占めにしてしまったものを…」
そこに映し出されたの真実の記憶。
最後の瞬間、力の奔流はカレンではなくフェイ自身に向かっていた。呆然とするフェイの前にミァンの呪縛から解放されたカレンが飛び出し、身を挺してフェイを守っていた。
「嘘だっ!あの女が!この光景は、そいつが創り出した幻想だっ!俺は、俺の存在意義は、こんなだましを見せられたって揺らがないぞっ!
俺は……!俺は……!」
目の前に映し出される真実を受け入れられないイド。
「イド……もうやめよう。俺達がこんなことをしていたって何の解決もないんだ。母さんは最後に俺達を救ってくれた。それは事実だ。そうだろう?辛い現実ばかりじゃないんだよ、イド……。」
「俺の……俺の力は誰も救えなかった。ただ、破壊するだけだった。人との一体感は、それを壊すことによってしか得られないと思っていた。
だから全てを壊すしかなかった……。人も、世界も……エリィも……。」
「でも、そうじゃない。ミァンであった母さんが俺達を救ってくれたのと同じに救えるんだよ。俺達の力は…。人を、そして……エリィを。」
「…初めてだよ。母親とはこんなにもあたたかなものだったなんて……
俺には……あたたかすぎる……。
フェイ。俺の持っている記憶を渡そう。そうして知るんだ。今までの生き様を。俺達が何者なのかを。そして何を成すべきかを。まだ俺達の本当の統合は済んでいないんだ。」
真実を知ったイドは全てを受け入れ、記憶をフェイに託して同化した。それは全ての接触者の記憶。
原初の時代、現人神と祀られた天帝に反旗を翻し、逃亡するエリィと最初の接触者アベル。アベルを身を挺して守り、エリィは命を落とした。
ゼボイム時代。エメラダの研究をする接触者キムとその恋人のエリィ。エメラダを軍事利用しようとする軍隊の侵入を身を挺して阻止し、エリィは命を落とした。
500年前のラカンとエリィ。仲間を助けるために特攻し、エリィは命を落とした。
それぞれの時代、それぞれのエリィが残した最期の言葉。それは『生きて……』。
気がつくと、フェイは暗い空間にいた。彼の前には光の姿を取った「何か」があった。それは、フェイに語りかけてきた。
『私は……私はゾハルに宿るもの。最先にして最後のもの。始めにして終りのもの。』
「……神?」
『神……そうとらえる者もいる。たしかにそれはある見方では正しい。だがそうでないともいえる。私は……君自身でもあるのだ。
人の観測行為によって私は定義づけられる。今君に向かって話し掛けている私は、“君が知覚する為に、君によって擬似的に創られた私”なのだ。』
「なんのことだかわからないよ。一体あんたは何者なんだ?」
『一言でいうならば……そう、存在だ。私は本来、肉体というものを持たない高次元の“存在”。それは君達には知覚することが出来ない、ある種、波のように振る舞うもので満たされた世界。空間と時間の支配する、この四次元宇宙の源となった場所。無のゆらぎ……波動存在。』
「その存在が、何故俺に……?」
『古の昔、事象変移機関という半永久無限エネルギー機関が創造された。機関は『ゾハル』と名付けられた。それは太古の異星の人々が、この四次元宇宙で考えられる最高のエネルギーを得ようとして創造した機関だった。
やがて人はその機関を利用した究極の星間戦争用戦略兵器『デウス』をも創造し、ゾハルはその主動力炉として使用される事となった。
しかし予期せぬ事態が起こった。完成したデウスとゾハルとの連結実験の最中、無限の可能性事象……エネルギーを求めた機関は、本来別のものである、この次元と高次元空間とを結び付け、結果、そこに存在していた高次元の波……私と結合<シンクロ>した。
私は、機関の作り出した高次元との接点……、『セフィロートの道』、現在君がいるこの領域を降<とお>って四次元世界に具現化した。四次元世界へと“降臨”した私は、物質として四次元世界に安定することと引き替えに事象変移機関……つまり『ゾハル』という“肉体のおり”に束縛されてしまったのだ。
ゾハルに束縛された私は、もとの次元に還ることを望み、……そして結論した。経てきた過程の逆、私に『意志』というこの次元の特質を持たせた者の手による解放を……。それが君だ。』
「俺が決めた?特質を??」
『そう。私は接触者である君の観測行為によって人の特質……母の意志を持ったのだ。覚えているはずだ。私の降臨直後の事象変移機関、『ゾハル』と君は接触している。
接触者である幼い君の中の母親への回帰願望によって定義づけられた私は、母親としての意志を備えた。それがエレハイムだ。』
「エリィが俺によって?」
『そうだ。私の意志はデウスの要であった生体コンピューターを介して具現化した。私と結合した生体コンピューターは、その機能を進化させ、そのバイオプラントによって一つの中枢素子を生成した。それが彼女なのだ。
君との接触によって私は分かたれた。ゾハルという肉体、エレハイムという意志。そして君の中に流れ込んだ力。故に私は君との融合を待った。
そして今、それが成就された。残された私の願いは分かたれたもう一つの私の肉体『デウス』とそれと共にあるエレハイムと融合し、完全体となり、その“肉体のおりを壊す”だけだ。私がもとの次元に還る方法は、肉体の破壊以外にない。
四次元世界で完全無欠なるゾハルを消滅させるには、私の特質を決めた君の力が必要なのだ。ゾハルは“接触者”の手によってしか破壊出来ない。』
「エリィは?ゾハルを破壊したらエリィはどうなるんだ!?」
『ゾハルとデウスのシステムは一体。彼女はシステムと、私との合一を望む者の意志によって縛られている。彼女を解放するためにはデウスの兵器としてのシステムそのものを破壊しなくてはならない。だが兵器として創られたデウスのシステムは、私とは違った目的で君達との合一を求めるだろう。
解放は、本来ならば高次への回帰を望む私が行うべきこと。しかし彼女同様、私もシステムに
縛られている。関与することは出来ない。それに彼女を呪縛から解放出来る者は君以外にはいない。私とデウスが不可分であるのと同じに、君と彼女もまた不可分なんだよ。』
「……わかったよ。俺はデウスを、ゾハルを破壊する。そして、エリィを救い出す。」
『君は数々のそう失を体験した。それは悲劇だった。君の人格が分かれてしまったことも、そもそもは私との接触による意志と力の転移が原因だったのかもしれない。』
「それは違うよ。原因を外に求めちゃダメなんだ。過去に何かがあって、その蓄積が遠因となっていたとしても、それは……全ては俺自身の問題なんだ……」
『そうか……。それら悲劇を受け入れ、全てを許容、包含し、自らの立つべき場所を見つけることが出来た君ならば、きっと出来るはずだ。
全ての解放を……ゼノ……ギアス……を使って…ゾハル……を破壊……のだ……』
フェイの決意を見届けた『存在』は無限の力を持つギア、ゼノギアスを彼に託し、消えていった。
現実の世界に戻ったフェイ。目の前にはカーンのギアがあった。
「父さん!大丈夫か?父さん!すまない……俺のせいで、こんな…」
「フェイ……?そうか、元に戻れたのだな……一つになれたのだな……」
「ああ、みんなのおかげだ。父さんやみんなが呼んでくれなければ俺は……」
声を掛けるも、カーンは苦悶の声を上げた。
「父さん!」
「気にするな……これで良かったのだ……こ……れで、後は……私は……お前と……
お前と一体になるだけだぁーっ!!」
突如、カーンの姿がグラーフへと変貌した。
「ぐぁっ!ぐ、グラーフ!?なんで……」
「ふふふ……“私”は三年前のあの日、憑依した肉体に限界が来ていた……。
“私”は、お前が真の覚醒を果たすまでの間の憑代としての肉体、お前の父親の身体を得たのだ。覚醒、統合し、連なる記憶を得たといっても、私とカーンの融合前に、その時点での記憶を奪われたお前が知るよしもなかったろう。」
「そ、んな……。それじゃあワイズマンは、父さんは……」
「無論私の一部だが、私とてカーンの全てを掌握出来た訳ではなかったのだ。カーンの自我の力は思いの外強く、私の束縛が弱まった時に表出、ワイズマンの姿をとって、お前を導いていたのだ。
お前は覚醒を果たした。この肉体ももはや不要。後は本来の肉体に戻るだけだ。」
「や、やめてくれ……父さん……」
「ああ、聴こえているぞ、フェイ。表裏一体。私はカーンであり、カーンは私なのだからな。さあ、心を開いて私と一つとなれ。そして全てを消し去ろう。」
「い、やだ……俺は……あんたに……操られる訳には、いかないんだぁーっ!」
「ふん。主を護るか。よかろう。その機体ごと融合してくれる!さあ、拳を交えようぞ、フェイ!」
「無理だ!たしかにあんたはラカン、俺の分身かもしれない。だけど、それでも俺の父さんであることに変わりはないんだっ!そんなあんたと本気で戦える訳ないじゃないかっ!」
「あまいわ!そのあまさがソフィアを、母<カレン>を殺したと何故わからぬ!」
「わかっている!そんなことはわかっている!だから俺は誓った。もう逃げないと。必ずエリィを助け出すと。だから邪魔をしないでくれっ!目を醒ましてくれっ父さん<ラカン>っ!」
「ならば戦え!戦って……」
「出来ないっ!」
「そうか、ならば仕方あるまい。お前がふがいないのでな。奴等をえさにする。」
グラーフはシタン達の方を見て言った。
「やめろ!俺達の想いは、あの時感じた悲しみは同じはずだ。なのに、なぜ、なぜあんたは全てを滅ぼそうとするんだっ!デウスを止めれば終わることじゃないかっ!」
「お前は存在と接触してもなお理解できぬのか?私は、存在との接触で知った。たとえデウスを破壊したところで、人がこの地に息づくうちは何度でもミァン……エレハイムは生まれてくる。ならば人を、生けるもの全てをデウスと共に葬り去る。それこそが繰り返される造られた生命、歴史の悲劇、運命の呪縛から人が、我等が解放される唯一の道なのだ!
デウスを兵器として覚醒させ、全ての生物を根絶した後、覚醒したお前とその機体を使い、全てを無に還す……。そう私は結論した。ミァンもエレハイムも、単なるデウスの代弁者ではない!あの女が本体なのだ。何故それが解らぬ!」
「それは違う!母さんはあの時、俺をかばって死んだんだ!あの時の母さんの目はミァンのものなんかじゃないっ!最期のあの一瞬、ミァンは母さんに戻ったんだ!ミァンも、母さんも……エリィも、この惑星で生まれた人間!デウスなんて関係ないっ!俺は、俺は必ずエリィを連れ戻して見せるっ!
父さん……いや、グラーフ<ラカン>!あなたが退かないつもりなら……」
「愚問!」
「ならばっ!」
「「今こそ我ら、真に一つとなる時!」」
互いに死力を振り絞った一騎討ちを演じ、ゼノギアスの力とこれまで培ったフェイの力によってグラーフが駆る真ヴェルトールは撃破された。しかしフェイは止めを刺そうとはしなかった。
「何故、とどめを刺さぬ。“私”を消し去らねば、お前の望みはかなえられんぞ。」
「もういいんだ……父さん。知ってるよ。あんたはグラーフなんかじゃない。俺の父さんだ。父さんとグラーフは一つ、その意志も目的もなんら変わりはない。それが戦っていてわかったんだ。
もう止めよう。俺達の目的は一緒のはず。それは一つになったのと同じ事。戦うことなんてないんだ。」
そう言い終わった刹那、フェイの身体に異変が生じた。
「ぐあっ!な、なんだ……!?身体が……!」
「求めているのだ。ゾハルが。デウスのシステムが最後の欠片との融合を。原初に分離したお前との合一を。」
そういうとカーンはフェイの身代わりにその場に立ちはだかった。
「な、何を……!」
「これはラカンの望んだことなのだよ。しょせん私は不完全な存在。こうなることは必然だったのだ。
過去、波動存在との不完全な第二次接触はラカンの人格を二つに分けてしまった。やがてその肉体は滅び、接触者としての運命を持ったまま、本来のラカンは今のお前に転生した。
だが残された人格、その念だけは、人に憑依することによって生き長らえた。それがグラーフ、……私なのだ。
しかし、私はラカンの意志こそ受け継いではいるが、“接触者ラカン”そのものではない。私では駄目なのだよ。真の統合と解放はあり得ない。だが、肉体は違えど、私は分かれたお前の半身であるのもまた事実。こんな不完全な私でも、一時的にゾハルと融合し、時間を稼ぐことぐらいは出来る。こうすることでしか私はお前と一つになれないのだよ。
私に出来ることはここまでだ。いずれデウスのシステムは再びお前を求める。それまでの間に完全体となったデウスと、ゾハルを破壊するのだ。神の肉体を包む壁を破壊できるのは、その一部であるお前自身。
…お前の言うとおり、あれはカレンだったよ。ミァンは代を重ねたことによって、その束縛から解放されつつある。今のエレハイムは、デウスと融合したことによって全ての記憶を持っている。接触者の対として生まれた原初からの転生の記憶以外にも、全てのミァンとその代替者達の記憶を。
そう、お前の母の記憶も……。
いいか、フェイ。全ての呪縛を断ち切るのだ……今のお前にならば、それが出来るはずだ。彼女達を救ってやってくれ。
頼んだぞ、フェイ……」
消滅の寸前にフェイから「グラーフ」でも「ラカン」でもなく「父さん」と呼ばれ、息子に全てを託して「フェイの父」として、カーンは死んでいった。
ep55 はるかに遠き 夢の形見は…
メルカバー起動後、デウスはその部品となる事を運命られた変異した人々を次々と吸収し、変異しなかった者、いずれはその脅威となる文明を根絶する為に活動を開始した。
地上はメルカバーと、そこから生み出された『天使<アイオーン>』と呼ばれる兵器群によって蹂躙された。
フェイはあの後メルカバーのあった場所で仮死状態になっている所を発見された。彼はそのまま彼の中に眠るイドの力を恐れるシェバトによってカーボナイト凍結に処せられた。
なぜそれほどフェイの力を恐れるのかと問うシタンに、女王ゼファーは500年前の出来事を語り始めた。
500年前、地上の制圧をもくろむソラリスとそれに対抗するシェバトとの戦争があった。当時シェバトは人々の信望を集めていたソフィア(当時のエリィ)を疎ましく思っており、一方のガゼルも思い通りにならない当時のミァンを疎ましく思っていた。そこで二つの国は互いにソフィアとミァンを差し出し地上を分割統治する取引をした。権力欲に溺れた末の決定だった。
その結果ソフィアと彼女を警護していたラカン、カレルレン、ゼファー、ロニ・ファティマらはソラリスの軍勢に囲まれてしまった。ソフィアは仲間の退路を開くためにたった一人特攻をかけ、壮絶な最期を遂げた。
彼女を心から愛していたラカンとカレルレンの絶望は深かった。ニサンの僧兵長として彼女に付き添っていたカレルレンは呼んでも答えぬ神と信仰に絶望し、自ら神を創り出すと言って姿を消し、後にソラリスへ亡命した。
一方のラカンは自らの無力さに絶望し、シェバトに捕えられていたミァンにそそのかされ絶対的な力を求めて力の根源である『ゾハル』を探す旅に出た。そしてゾハルの力を得た彼はデウスの端末である兵器群を率い世界を破滅させた。
それこそがグラーフだった。グラーフはその後人の精神に宿る術を身につけ、接触者の運命を持った自らの肉体の転生を待った。その肉体、つまりフェイと合一を果たすために。
全ては当時の人の権力欲が引き起こした悲劇。それを止められなかった女王ゼファーにも責任はあった。
グラーフと同質の力を持つフェイ。シェバトは自らの悪行を封印したかったのだ。
そして、シェバトの危惧した事は現実となる。
暗闇の中、フェイの中で記憶がフラッシュバックしていく。そこにもう1人の自分が現れた。
不思議に思っているフェイに、さらにもう1人の自分が声をかけてきた。
『恐れ入った。うまいことするじゃないか。』
「お前は……イド?」
『少々見くびっていたよ。模擬人格のお前に、まさか四人目が作れるとはな。』
「四人目?」
『そいつは何も感じることはない。自我の殻に閉じこもったんだ。押し寄せる事実と直視したくない真実。それらを恐れたお前は外界からの完全な隔絶を望んだ。
そして四人目の人格を形成した。四人目のフェイ。名前は……どうでもいい。
今、ステージに立っているのはこいつだ。こいつが俺達の体を掌握してる。だが、それも無駄な抵抗だ。こいよ。』
イドが「四人目」の手を引き、どこかへ立ち去ろうとしている。
「待て、何をするんだ!」
『鍵はこいつが持っているそれを使わせてもらうだけさ。俺には、行かなければいけない場所があるんだ。』
『お前も……来るかい?』
シタンが女王から話を聞いている頃、牢獄に異変が起こっていた。凍結されたフェイがイドの力により呪縛を打ち破って脱走したのだ。
彼の向かったのは太古の昔ゾハルが落着した場所。シタンたちはフェイを追ってそこへ向かった。
ep54 君が呼ぶ 哀しみのメルカバー
ep54◆君が呼ぶ 哀しみのメルカバー
エリィが連れ去られた後、助け出されたフェイたちは八方手を尽くしてエリィの行方を探し回った。その結果、エリィはカレルレンがラジエルから得たデータを元に建造中の空中要塞メルカバーにいる事が分かった。
ラムサスの身をを案じるエレメンツも仲間に加え、メルカバーに潜入したフェイたちの前にそのラムサスが立ちはだかった。エレメンツの言葉も耳に入らぬラムサスは、フェイに対する憎しみの元を語り始めた。
彼は天帝のコピーであり、人工の接触者として培養槽で生を受け育った。しかし研究に加わったフェイの母、カレンがフェイを転生した接触者と知ったことによりラムサスは不要とされ、廃棄されたのだった。
そのため彼は「フェイ」に対しての拭い難い憎しみと失われた愛情への渇望を抱いた。
「フェイ」を滅するか自らの消滅か。彼はその存在の全てを懸けてフェイに挑み、そして敗北した。
ラムサスを退けたフェイらは最奥部の大広間に出た。そこには巨大なデウスの繭があり、カレルレンとミァン、そしてデウスに供されるかのように十字架に架けられたエリィがいた。
突如フェイたちのギア・バーラーに異変が起こった。アニマの器が分離し、デウスに吸収されたのだ。
アニムスと結合して覚醒しデウスの部品となること。これこそアニマの器の真の意味だった。
動かなくなったギアから降りたフェイたちを押しのけ、呆然としたラムサスがミァンに詰め寄った。
「な、何だったんだ…。俺のやってきた事は…。
俺という存在には…一体何の意味があったんだ…」
自分のしてきた事の意味を問う彼に、ミァンは真実を告げた。
「あなたの存在意義はただ一つ。天帝カインを消すこと。カインはヒトとしての意志が強くなりすぎていた。ヒトにこだわり過ぎていた。神の復活というその当初の使命を忘れてね。だからあなたを創ったの。私達の障害となるカインを消す為だけに、あなたは創られたのよ。原初生命体として絶対的な力を持つカイン。カインに抗敵させるには、あなたの精神を一点に集中させる必要があった。しかし、人工生命体であるあなたの精神状態は不安定だった。
だから……フェイという存在を利用したの。憎しみ……それがあなたの力の源……。あなたは見事私達の期待に応えてくれたわ。でもね……あなたはもう用済みなのよ?解っているかしら?もうあなたの出る幕はないの。
あなたは塵なの。塵は塵らしく、この場から退場なさい。」
「俺は……俺は……、何のために生まれ、何のために生きてきたのだ?」
全てが謀略だと知ったラムサスは逆上し…
カレルレンとミァンを、斬った。
「そう……、それでいいのよ、カール……。私は、自らを滅することは、出来ない運命……。これで……全て……の願いが……かな……う。あなたと……」
そう言いながら、ミァンは事切れた。
茫然自失とするラムサスを押しのけ、フェイたちはエリィを十字架からおろした。だが彼女は最早彼らの知っているエリィではなかった。
覚醒したエリィはフェイたちに語り始めた。
「あなた方に神と呼ばれているデウス……。それは太古の昔、異星の人間によって創造された“星間戦略兵器システム”。自らの意志で行動し、対象となる惑星を制圧する目的で創られた自動兵器。それはラジエルの記録で見て知っているでしょう?デウスは、その試験運転の時、暴走。その力を解放し、一つの惑星をまるごと破壊したの。
計り知れない戦闘力を持つ兵器、“デウス”に脅威を抱いた創造者達は、デウスを強制的に起動停止状態とした。
そのコア毎に分解し、暴走原因の調査の為、星間移民船に載せ、他の星系にある惑星に移送しようとした。
分かたれたデウスは抵抗した。移送途中にその星間移民船を乗っ取ろうとした。でも予期せぬ創造者の抵抗にあい、船は大破。そして、この星に墜落したの。
墜落の際、大破もしくは地表との衝突による消滅を免れられないと結論したデウスは、その動力炉“ゾハル”から中枢部分を分離。
“ゾハル”……。全てのギアを駆動する、スレイブジェネレーターの親機であり、あなた達の使う、エーテル力の源。事象変移機関という、未来の可能性事象……エネルギーの変位を自在に創り出すことの出来る無限エネルギー機関。
ゾハルから分離した中枢“生体電脳カドモニ”は原始のこの惑星に着陸した。そして、来るべき日、再びデウスが復活するようその生体素子維持プラント“ペルソナ”を使用。そこから人間が創造された。それが天帝カインとガゼルの法院達……。
何故、ガゼルの法院はアニマの器と、あなた達の肉体を求めたのか解る?それはね……、法院の肉体は、ヒトとなる前は“デウス”を構成する中枢回路の生体素子の一部だったのよ。
アニマと呼ばれるメス型とアニムスと呼ばれるオス型の生体素子。それはデウスの端末兵器として対象となる機械と融合、機動端末としての能力も兼ね備えていた。
つまり、あなた達の使用していたギア・バーラーはその一形態なの。アニムスであった法院は、神の復活の刻、分かたれたアニマと合一するはずだった……。でも、500年前の戦いで、その肉体は失われてしまった。そこで、自分達の子孫であるヒトの遺伝子内に息づく、自分達の因子を取り出そうとしたの。アニマと一つになる為にね。
つまり、あなた方ヒトは、全てカイン達の子孫……。ペルソナから生まれたカイン達は子を産み、増やしていったの。いつの日か再び、大破してしまったデウスを復活させるというプログラムに命じられるままね。
この世界の人間は、全てデウスを復活させる為に創造されたの。
単にデウスを修復するだけじゃない。兵器デウスは、その構造の大半が生体部品で構築されていた。変異した人間達が居たでしょ?彼等はデウスの部品となるべく運命られたヒト達だったのよ。
ほぼ全てのヒトは、デウスの部品となるべく運命られているのよ。でもあなた達は違うわ。代を重ねることによってその本来の運命から解放されたヒト……と言ってもいいかしら……。
実際デウスの部品は足りなかった……。でも、それを補ってくれたのがカレルレン。彼の創りだしたナノマシンは代を重ねることによって希薄化した部品……ヒトの因子を補うだけでなかった。新たな機能も付加してくれた。デウスは兵器として完璧なものへと進化したの。」
「エリィ……お前は一体……?何故、そのことを……知って……」
「私はミァン。刻の管理者。神<デウス>の代弁者。ヒトをデウス復活の為、あるべき方向へと導く道標として生み出されたのが私なのよ。
ミァンの因子はね、全ての女性の中に息づいているの。世代を超越し、ヒトを管理する者。前任者が死ねば、どこかで後任のミァンが覚醒する。そうなるように遺伝子にプログラムされているの。誰がその跡を継ぐかは確率の問題。フェイ。私も、そこで倒れている元ミァンも、全ては同一の存在。デウスの部品。ヒトの管理者なのよ。解るかしら?
お話はこれくらいにしておきましょうか。デウスは目醒めたわ。私はデウスを構成する部品の一つ。だから一つにならなくてはならないの。」
話し終わると彼女は呆然とするフェイたちに背を向け、神を創造しうる存在はいずれ障害となる。だから消去する。私にはそうプログラムされて
いる。と言葉を残し、ナノマシンによって蘇ったカレルレンと共にデウスの繭へと向かった。
メルカバーが起動する中、エリィを追えたのはフェイだけだった。シタンたちはやむなく彼を残し脱出した。
ep53 失われし約束の地
フェイたちを助けたくば『ゴルゴダの地』まで来い。カレルレンからのメッセージを受け取ったエリィはランクたちの制止を振り切り、シェバトに残されていたギア・バーラーに乗って単身出撃した。
フェイと仲間達を助けたい。その想いだけでカレルレンの前に立った彼女は、カレルレンの部下達を一旦は退けるも力尽きて捕らえられた。
限界を超えた力を発揮したエリィを見たカレルレンは、何かに気付いたようだった。
「真の覚醒……それとも……主を護ったか。いずれにせよ、私の求めていた存在<はは>であることに間違いない……。」
「よし、機体の回収をしろ。搭乗者の確保が最優先だ。搭乗者の生命維持を!
では、この娘はいただいていく。お前達はそこで己の無力さでもかみしめているといい。」
何もできなかったフェイ。グラーフが呟いた。
「……哀れよな。一人の女すら守れんとは。
ふぬけたお前なぞ、止めを刺す価値すらないわ。」
エリィを手中にしたカレルレンは、行動を開始した。ガゼルのメモリーを消去し始めたのだ。
「な、何をする!カレルレン、血迷ったか!?」
「メモリーバンクをなんとする!?」
「それに触れるな!それが無くなれば我等は…」
慌てふためくガゼル達。カレルレンは冷たく宣った。
「鍵はお前達でなければ作動できなかったからな。だが、その発動なった今、お前達の存在価値はない。お前達には消えてもらうことにするよ。
“私”の目的遂行の為の、唯一の障害であったカインは、もういない。私達“ヒト”に対して絶対的行使力を持ったカインは私の障害だった。
カインを消し去ることが出来るのは、カインのみ。その為に創り育てた“カインのコピー”ラムサスは思惑通り動き、そしてカインを消去してくれた。
“私”を止める者は最早ない。それに私は、貴様らの求める権力なぞには興味がない。お前達は、自己意志決定をしているつもりか?システムに縛られしモノ達よ。
所詮、お前達などは、侵略制圧兵器として創られた端末でしかないのだよ。」
徐々に消えゆくガゼル達。
「我……等は神に……なれるのだぞ!そ……れを……」
「神?誰が神になるというのだ?おこがましいことを言う。私達はヒトだ。神の端末として生成された貴様らとて、それは同じこと。
“ヒトは神になれぬ”のだよ。私達に出来ることは、ただその身を神に委ねることだけだ。」
「ば……カな……母ノ……意……しにハン…す……コト……をし…………」
「反してはいないさ。これはもう一人の彼女の意志でもある。」
「我……が消失……て……カミの……ふっか…つが……なせ……ると……オモ……ウのカ……」
「それが、出来るのだよ。崩壊の日々の後、世界を存続させる為に放った貴様らの遺伝子はヒトの中に息づいている。
器<アニマ>と同調者<アニムス>……。そして<ペルソナ>……。それらと私のナノマシンを結合させることによって、ヒトは貴様らと同等の存在となる。いや、それ以上の、神の端末に相応しい存在となる事が出来るのだ。
貴様らの存在価値は最早ない。神<デウス>は結果のみを求めている。過程なぞ、どうでもいいのだ。それが私の“方舟計画”。即ち<プロジェクト・ノア>。
もう、これでわずらい悩まされることもなかろう。一足先に心静かにお休み。ヒトの始祖達よ……」
ガゼルのモニターは全て沈黙した。
「これで私は、あなたと……ソフィアよ……これで……」
一方、グラーフに完膚なきまでにやられエリィをも連れ去られてしまったフェイは己の無力さに打ちひしがれていた。そこにワイズマンが現れた。
「そこで何をしておる?」
「あんたか……。俺は……グラーフに勝てなかった……。奴の足下にも及ばなかった……。そりゃあそうだよ。あんな化け物みたいな機体に乗ってる奴に、勝てるわけがなかったんだ……。
だのに……エリィは馬鹿だ……。
あれ程来るなと言ったのに……。逃げろと言ったのに……。ワナだと判っていたはずなのに。」
「……ふむ。たしかにそれでは勝てんな……。お前がそんな気持ちで戦っていたのではな。
お前が奴に敗れ、あの娘が連れ去られてしまったのは、ひとえにお前の慢心から。制御出来るとおごり、さっかくした『イドの力』、機体の力に頼り切っていたからなのではないか?グラーフの力の源はなんだ?機体か? 技能か? 経験か?
違うな……。……それは想いだ。
奴の心は、この世界全てに対する怒りに支配されている。その怒りの想いこそが奴の力の源なのだ。お前には、そのグラーフに対抗するだけの想いがなかった。だから奴に勝てなかったのだ。それが強さだ。
本当の強さが何か解らないまま、戦っていたのでは無理もなかったな……。」
「あの娘は……。お前達を助けたい一心で恐怖心を振り払い、あの機体に乗ったのだぞ。
その想いがあったからこそ、結果として、お前達は生き残った……私はそう思うよ。たしかにお前は敗れた。だが、これで終わった訳ではない。
お前は彼女の想いにどう応える?今度はお前が彼女を助ける番。……違うか?
さあ、お前はこれからどうするのだ?……フェイよ。」
ep52 追放されし者 神の楽園に帰る
出撃前夜、フェイはエリィにユグドラシルに残るように強い口調で言った。
彼の気持ちを分かっていながら、その辛らつな言葉にエリィは涙して走り去った。
自分の物言いを反省して追ってきたフェイの想いを受け取ったエリィは、彼の戻るべき場所として帰りを待つ事を決意。二人はお互いに心を通わせ、愛を確かめ合った。
神の眠る楽園マハノン。それは一万年前に墜落した航宙船エルドリッジの中央ブロックだった。
襲い掛かるソラリスの軍勢を蹴散らしながら奥へと進んだフェイたちは腐りかけた巨大生命体を発見、これを撃破した。その巨大生命体こそ生体兵器デウスのなれの果てだった。
デウスを破壊しさらに奥へ向かった彼らは、エルドリッジの巨大な中枢コンピュータがある広間に出た。
『ラジエルの樹』と呼ばれるそのコンピュータこそが、ガゼルが求める神の知恵の源だった。
彼らはそこから、先史時代について知った。星間戦争。その終結の為に作られた星間戦略統合兵器システム『デウス』と、その端末兵器群。ガゼルが全宇宙の支配者として君臨するための情報がそこにはあった。
それらの情報を収集する彼らの前に、カレルレンとグラーフが現れた。フェイたちは、グラーフの操るオリジナル・ヴェルトールに一蹴され、なす術もなく虜囚となった。