ep57 全ての始まりにして終わりなる者
シェバトに集まったフェイたちは、エリィ救出の為のメルカバー攻略の作戦を立て実行した。
戦艦エクスカリバー。シェバトに残されていたこの先史文明の戦艦を特攻させ、彼らはメルカバーを撃墜した。
ところが墜落したメルカバーから巨大な物体が姿を現した。それはメルカバーを覆い尽くすほど巨大に成長したデウスの最終形態だった。ナノマシンの力によって惑星と同化し始めたデウスから強力な衝撃波が放たれ、一つの大陸が灰燼と帰した。デウスの端末兵器による破壊、殺戮、デウス自身の攻撃。人類は既に絶滅寸前だった。
フェイたちに残された時間は少なかった。彼らは僅かに生き残った人々の最後の砦となっている墜落したシェバトに戻り、態勢を立て直す事にした。
シェバトにはメルカバーから前後不覚のまま救い出されたラムサスがいた。今は敵味方といった関係を越えて協力せねばならない時だ、とシタンが声を掛けるも、自分は塵だとしか言わないラムサス。
「甘ったれた事を言うんじゃないっ!!」
シタンが声を荒げ、ラムサスを殴りつけた。その後シタンはラムサスに、誰よりもあなたの真実の姿を知っているからいまだラムサスの元を離れないエレメンツの娘達の事を考えろ、と。それにあなただって塵ではない。それは私達が1番よく知っている、と励ました。
「俺の…俺の求めていたものがこんなに近くにあったなんて…それに気付かずに、俺は…
すまぬ…」
シタンとエレメンツの娘達に胸打たれ、ようやく自分を取り戻したラムサス。彼らは戦線に加わり、最後の戦場へと向かった。
巨大な構造体となったデウスに侵入したフェイたちは、襲い掛かる端末兵器を蹴散らしながら迷宮と化した内部を抜け最奥部へと到達した。そこにはエネルギーの繭に包まれたデウス本体がいた。
最後の戦い。エリィが最後に乗っていたギア・パーラーが異形化したデウスは、無限にエネルギーを生み出すゾハルの力を使い激しく攻め立てた。それに対抗しうるのは同じゾハルの力を得たゼノギアスだけだった。
フェイは仲間達のサポート受けついにデウスを、そしてゾハルを打ち砕いた。
ゾハルの破壊。それによってゼノギアス以外のギアは機能を停止した。
そんな中デウスの中心に巨大なエネルギーが観測された。それは開放された波動存在が高次元へとシフトする為に起こったものだった。そのエネルギーは凄まじく、反動で惑星が消滅しかねなかった。
フェイたちがなす術もなく見守る中、デウスが上昇を始めた。フェイは気づいた。エリィがデウスを安全圏まで移動させようとしているのだと。エリィはまたしても自らを犠牲にしようとしていたのだ。
もうエリィを失いたくない。その一心でフェイはデウスの後を追った。
デウス内部に突入したフェイ。そこでは高次元への道、『セフィロートの道』が開かれつつあった。そこでフェイはカレルレンと対峙した。静かに眠るエリィとその前に立ちはだかるカレルレン。
カレルレンは静かに語り出した。
「セフィロートの道は繋がった。神の旅立ちは最早誰にもとめることは出来ない。今更何をしに来たんだ?ラカン。」
「俺は愛する人を取り戻す為にここに来た!エリィを放せ!デウスのシステムは破壊した。全ては終わったんだ!だのに、お前はまだ何をしようというんだ!」
「全てが始まったあの刻。全てが一つだったあの場所へと還るのだ。
宇宙の始まり以前、高次元の波動の場において、全ては一つだった。そこから波動がこぼれ落ちることによってこの四次元宇宙が創られたのだ。
そこから生まれたヒトもヒトの魂も、こぼれ落ちた波動の残りかすなのだ。だから……」
「そこへ還るというのか?それがお前の望んでいたことなのか?」
「ラカン……。何故そうまで頑なに神との合一を拒む。くだらん現世に何の未練がある?他人を傷つけ、自分を傷つけ、互いを削りながら短い生を全うして土に還ることになんの意味がある?
ここには全てがある。愛に思い悩むこともない。ここには神の愛が満ちている。」
「俺は、お前ほど人に対して絶望してはいない!人にはいつか解り合える時がくる!俺はそう信じている!」
「何故そう言いきれる?ヒトとヒトとは、決して解り合うことはない。
お前は彼女を愛していると言った。だがそれは本当に解り合っているといえるのか?
所詮ヒトは、お互いにとって都合のいいように距離を置き、仮初めのそれを、相互理解、精神の合一、真実の愛と偽っているにすぎない。
ヒトは自らをあざむく事によってしか、他人と交わることができないのだよ。そう創られているのだから……。」
「だからといって、たった一人のエゴが、全ての人の運命を決めていいはずがない!人には自分の運命を自分で決める権利がある!自由な意志があるんだ!」
「その意志すらも、事前にとり決められたもので
あったとしたらどうする?
創られた始原生物であるヒトに自由意志などというものはない……。ただ“そのように”“そうなるように”不完全な状態のまま、生かされているだけなのだ……。
それ故に、なまじ意志などというものがあるが故に、ヒトは悲しみとそう失を経験しなければならない……誰かが何かを得るということは別の誰かが何かを失うことなのだ……
限られた“モノ”と“想い”は共有することはかなわない……だから私は、全てを最初の時点に戻そうと結論した。
波動という、それ以外何もない、一つの存在であったあの刻に……。これは私<ヒト>のエゴではない。波動<神>の意志なのだ……。
「それでもいいさ……。不完全でも構わない。いや、不完全だからこそ、お互い欠けている何かを補いあい生きていく……それが人だ……。
それが解り合うということなんだ!俺はそんな人であることに喜びを感じている!
エリィは、そう選択した俺達に未来<あした>をたくして、今こうやって、俺達の星からデウスを遠ざけようとしてくれている。
そしてまた、たった独りで、神と旅立とうとしているお前の心を癒そうと……。
そのエリィの気持ちが、お前には解らないのか!?神と一つにならなければ、それが解らないのか?俺には解る……わが身のようにエリィの想いが……。
……そう、俺達は一つなんだ!神の力なんか借りなくても!!」
「ならばそれを私に見せてくれ。神の下から巣立とうと言うお前達ヒトの力<愛>を……。」
彼の言葉を聞いていたカレルレンはウロボロスをフェイにけしかけた。それは人が神の下から巣立つために人の力<愛>を試す最後の試練だった。フェイがそれに打ち勝つのを見届けて、カレルレンはエリィを開放した。
「フェイ……私を解放してくれたのは、カレルレン……。
カレルレンと一つになって解ったの。彼の心は悲しみに満ちていた。だから彼は私との、神との合一を願った。それがすべての原点への回帰だったから。彼が言ってくれたの。あなたと一緒に居るべきだって、そう言ってくれたの…。彼は解っていたわ。私の想いも、あなたの想いも。
でも、どうしようもなかった。人であることを、全ての想いを捨ててでも、彼は前に進むしかなかった。全ての人の為に…。
決して後戻りは出来なかった。振り返れば、そこは思い出で一杯の場所だから。そこに…、還りたくなってしまうから…。
だから、彼を赦してあげて……。カレルレンは誰よりも人を愛していたのだから……。
「そんなこと……そんなこと、はじめから解っていたさ。あいつがそういう奴だって事ぐらい……。」
「……ごめんなさい……。私は間違っていたのね。私は、自分を犠牲にしてでも、他人を救うのが正しいことだと思っていた。
でも、私の行為は、遺されたあなた達の心の中に悲しみを遺すだけだった。その悲しみが新たな悲しみを生んでしまった。
私という存在があなた達の中にも生きている以上、私の命は私だけのものじゃない。」
「エリィ……それは間違いなんかじゃないよ。誰かの為に、自分をささげるのは尊いことだ。それがたとえ自分の為であったとしてもそんなことは問題じゃない。
そこには必ず、癒されている人が存在するのだから……。愛は、与える者と受ける者、二つの関係があってはじめて本来のかがやきを成すもの。どちらが欠けても不完全…。二つは一つ。そう、教えてくれたのはエリィじゃないか。
それが人であることの意義なんだと俺は思う。今の俺にはその大切さが理解出来る。
正しい答えなのかどうかはわからない…。でも、そのことについて考える時間はたくさんあるよ。
カレルレンが見つけようとしていたもの……答えは……俺達が見つけよう。」
「ありがとう……フェイ。」
「還ろう、僕らの星に。」
次元シフトが始まり出した。フェイ達が駆ける中、そこにはカレルレンの寂しそうな背中があった。
「カレルレン……お前。」
『もう時間がない。ここもじきに消滅する。
これで神はいなくなる。この星は人の惑星……自らの足で歩むお前達の故郷だ。』
「カレルレン……行けないのか?」
『ああ……私はあの時を境にして、人としての道を失った……。多くの禁を犯した……もはや人として生きることは許されまい。私を許してくれるのは神のみなんだよ。』
「そんなことはない!きっとみんなだって解ってくれるさ。罪滅ぼしの時間だってたくさんある。お前にならそれが出来るよ。」
『相変わらず優しいんだな、ラカン。……きっとそれが人であることの意義なんだろうな。だが行けないよ。もう決めたことなんだ。……私は神と歩む。それに、たとえ還ったところで……私の居場所など……。
…そろそろ行くよ。』
「カレルレン……。」
『お前達が羨ましいよ……。』
カレルレンは最後にそう呟いた。それは今まで自分を偽ってきた男が漏らした『人』としての本音だった。
そしてカレルレンは神と共に歩む道を選んだ。人には持ち得ない両翼の翼を広げて。
彼の後ろ姿を見送って、フェイとエリィは自分達の世界へ向かった。
デウスの次元シフトの余波が広がる中、二人の乗ったゼノギアスは、仲間たちの待つ地上に舞い降りていった。
FIN