ep42 暗き海の底 第三のゲート
ガゼルの法院がカレルレンと協議をしていた。
「ゲートの残りは一つ。このエテメンアンキの市民に動揺が広がっておる」
カレルレン「衆愚など天帝の言葉で何とでもなる。天帝の肉体も限界に来ているが、ダミーを使えばよい。それよりもメモリーキューブから面白い情報が得られた。あのラムズたちの中に"母"がいる」
「我らの"母"が他にもいると言うのか。なぜ今までそれに気づかなかった」
カレルレン「"母"の仮面<ペルソナ>は一定の年齢に達せねば現れん。そしてそれは"対存在"の可能性が高い」
「"対存在"……。あのニサンの女のか……」
カレルレン「確認の為に、ゼボイムから回収した"エメラダ"を使う。"母"が言うには、あのナノマシン群体は、ゼボイム時代の"接触者"と"対存在"が創ったらしい」
「"母"の記憶か……」
カレルレン「うむ。何らかの反応が得られるはずだ。何も無くても、あれの調査は終わってる。もう必要ない」
三つのゲートはソラリスを中心に正三角形の頂点にそれぞれ配置されている。その情報とエリィ達ソラリス組の情報を総合して考えた結果、三つ目のゲートはイグニスの南の深海にある事がわかった。
海中と言えばタムズ。という事で、フェイたちはタムズの艦長の協力を得て第三のゲートへ向かった。
ゲート発生機の前には二機のギアが待っていた。グラーフがエメラダと呼ぶ少女が乗ったクレスケンスと、カレルレンの従者、人機融合を果たしたケンレンだった。
フェイたちに襲い掛かるクレスケンス。ケンレンはその成り行きを見守っていた。
やがて、エメラダが苦しみ始めた。インプリンティングの発露。ケンレンはそう確認し、その場を去った。
「その娘は進呈します。ご自由にお使い下さい。なにせあなたの"娘"ですから」
ユグドラシルに戻るとエメラダは、フェイを「キム」と呼んでまとわり付いた。
「お、おい。俺の名前はフェイだ。キムじゃないぞ」
困惑するフェイにシタンは言った。
「この子にとって『キム』という言葉は単なる名前以上のモノらしいですね。
…例えば、『おとうさん』みたいな?」
2人の会話を遮るようにエメラダは騒ぎ続ける。
「キム! ホントにいたんだ!ずっと夢の中の人かと思ってた!聞いてキム!あたしずっと昔の夢を見てたんだ。キムが今より大人で、あたしはなにか透明な筒の中にいて…キムはふわふわした白いお菓子にローソクを立てて……。なにやってるのか解らなかったけど、あたしがここから出るのを楽しみにしてるって解った。でも、いつの間にか誰もいなくなって、体もなくなって、長い間一人きりで……もういなくならないでね、フェイのキム!」
「あ、あぁ…」
「ほんと?ホントにほんと?」
勢いに圧倒されるフェイ。エリィも場の雰囲気に呑まれ、ホントにほんとよと語りかけるも…
「さっきからうるさいなぁ!だれ?おばさん?あたし、キムと話してるの!」
「おば…!も、もう一回、海の底に沈めてこようかしら…。
その子のキムをやってあげたら?フェイのキム!!」
さすがに怒るエリィ。場を濁すようにフェイはエメラダに語りかけた。
「あの…なんだ…。そういえばお前、名前はあるのか?」
「あぁ〜!ひどいなぁ。フェイのキム!エメラダだよ、エメラダ!エメラルドの髪の毛だからってキムがつけてくれたんだよ!忘れちゃってんのぉ…」
「ああ、わかった、わかった。エメラダだな?わかったよ。エメラダ。今度はずっと一緒にいてやる。約束する。」
なんとかエメラダをなだめるフェイ。シタンはエメラダにあった情報が既にカレルレンの元に渡ったと睨み、次に行動を起こす前にソラリスの居場所を突き止めようと皆に話すのだった。