ep33 古の声がいざなう 海底神殿へ
ユグドラシルがタムズに到着した頃には既にウェルスは掃討され、救難活動が始まっていた。
艦長たちの無事を確認したバルトらは、カレルレン艦とアルカンシェルを追って発掘現場へ急行した。
その頃、ギアに乗ったグラーフにミァンからの通信が入っていた。
「彼が再び目覚めようとしているわ。彼の仲間は今はゼボイム。あそこに何があるか、貴方の方が良く知っているでしょう? 彼は渡そうとはしない。けど、私たちにも必要なものなの。だから、お願い……」
発掘現場。小さな無人の孤島にある入り口から入り、エレベーターで下った先には巨大な地下空洞があった。
空洞の地面を、高層ビル群とアスファルトが埋め尽くしている。その遺跡を遥か眼下に見下ろす渡り廊下に来た時、エリィが何かに取り憑かれたようにつぶやいた。
「空洞都市ゼボイム……。私達は、自らをこの広大な霊廟に葬った…」
我に返ったエリィと共に、バルトたちはソラリス兵を撃破しながら遺跡内部を進んだ。発達した文明を示すように、各所に超近代的な設備があった。どうやらこの施設はその稼動時に放射能汚染を防ぐために閉鎖されたようで、各所の隔壁が閉ざされていた。そのロックを解除しつつ進むと、最奥部にパスワードでロックされたナノリアクター室に行き当たった。
その部屋を見たエリィの脳裏に、血まみれで通路に倒れふす自分とそれを見て泣いているフェイの姿が浮かんだ。
「あの子はあの時からずっと、一人ぼっちでここにいたのね……」
そうつぶやいたエリィは、制御室に向かい扉のロックを解除した。
『新たなる魂の器よ。願わくば宿るべきあなたのその魂に安らぎあれ』
ロックが解除されるのと同時にナノリアクターが稼動し、リアクター内に緑の髪をした少女が生成された。
そこへ、ストーン司教が現れた。彼はナノマシンの群体である少女を連れ去ろうとした。
「彼女はヒトのクビキを外す存在。これはヒトの救いとなるもの。これによって、選ばれた人間は救済されるのです」
「それは何か間違っています。信仰による救いの機会は等しく与えられるべきです」
ビリーはストーンに意見するが、ストーンはまた違った答えをビリーに示す。
「そもそも信仰とは選ばれた者だけが救われる事を期待するものなのです。貴方は全てのヒトを救えますか?カレルレン様がこのナノマシンを使えば、少なくとも選ばれたものは救われるのです」
「司教様、貴方はこの少女を使って何をしようとしているのですか? 僕は貴方が義しき者とは思えない。残念ですが、貴方のお心に沿うわけには参りません」
ビリーの言葉に対し、残念ですと言って立ち去ろうとした司教を止めようとするエリィ。しかし司教の護衛として付いていたエレメンツのトロネとセラフィータに阻まれた。
ラムサスの頭越しの命令で乗り気でないと言いつつも攻め立てる二人を撃破し、エリィたちは司教の後を追った。
その頃、ユグドラシルではフェイが夢を見ていた。
ナノリアクター室にいる自分。彼は窓ごしにエリィが銃殺されるのを何も出来ずに見ていた。
「その子を渡すわけには……いかないよね……」そう言って彼女は事切れた。
フェイが叫ぶと同時に周囲が暗転し、ニタリと笑った幼いフェイが彼の前に現れた。
「ククク……じゃあな……」
看護婦が病室に来た時、ベッドにフェイの姿は無かった。