ep54 君が呼ぶ 哀しみのメルカバー
ep54◆君が呼ぶ 哀しみのメルカバー
エリィが連れ去られた後、助け出されたフェイたちは八方手を尽くしてエリィの行方を探し回った。その結果、エリィはカレルレンがラジエルから得たデータを元に建造中の空中要塞メルカバーにいる事が分かった。
ラムサスの身をを案じるエレメンツも仲間に加え、メルカバーに潜入したフェイたちの前にそのラムサスが立ちはだかった。エレメンツの言葉も耳に入らぬラムサスは、フェイに対する憎しみの元を語り始めた。
彼は天帝のコピーであり、人工の接触者として培養槽で生を受け育った。しかし研究に加わったフェイの母、カレンがフェイを転生した接触者と知ったことによりラムサスは不要とされ、廃棄されたのだった。
そのため彼は「フェイ」に対しての拭い難い憎しみと失われた愛情への渇望を抱いた。
「フェイ」を滅するか自らの消滅か。彼はその存在の全てを懸けてフェイに挑み、そして敗北した。
ラムサスを退けたフェイらは最奥部の大広間に出た。そこには巨大なデウスの繭があり、カレルレンとミァン、そしてデウスに供されるかのように十字架に架けられたエリィがいた。
突如フェイたちのギア・バーラーに異変が起こった。アニマの器が分離し、デウスに吸収されたのだ。
アニムスと結合して覚醒しデウスの部品となること。これこそアニマの器の真の意味だった。
動かなくなったギアから降りたフェイたちを押しのけ、呆然としたラムサスがミァンに詰め寄った。
「な、何だったんだ…。俺のやってきた事は…。
俺という存在には…一体何の意味があったんだ…」
自分のしてきた事の意味を問う彼に、ミァンは真実を告げた。
「あなたの存在意義はただ一つ。天帝カインを消すこと。カインはヒトとしての意志が強くなりすぎていた。ヒトにこだわり過ぎていた。神の復活というその当初の使命を忘れてね。だからあなたを創ったの。私達の障害となるカインを消す為だけに、あなたは創られたのよ。原初生命体として絶対的な力を持つカイン。カインに抗敵させるには、あなたの精神を一点に集中させる必要があった。しかし、人工生命体であるあなたの精神状態は不安定だった。
だから……フェイという存在を利用したの。憎しみ……それがあなたの力の源……。あなたは見事私達の期待に応えてくれたわ。でもね……あなたはもう用済みなのよ?解っているかしら?もうあなたの出る幕はないの。
あなたは塵なの。塵は塵らしく、この場から退場なさい。」
「俺は……俺は……、何のために生まれ、何のために生きてきたのだ?」
全てが謀略だと知ったラムサスは逆上し…
カレルレンとミァンを、斬った。
「そう……、それでいいのよ、カール……。私は、自らを滅することは、出来ない運命……。これで……全て……の願いが……かな……う。あなたと……」
そう言いながら、ミァンは事切れた。
茫然自失とするラムサスを押しのけ、フェイたちはエリィを十字架からおろした。だが彼女は最早彼らの知っているエリィではなかった。
覚醒したエリィはフェイたちに語り始めた。
「あなた方に神と呼ばれているデウス……。それは太古の昔、異星の人間によって創造された“星間戦略兵器システム”。自らの意志で行動し、対象となる惑星を制圧する目的で創られた自動兵器。それはラジエルの記録で見て知っているでしょう?デウスは、その試験運転の時、暴走。その力を解放し、一つの惑星をまるごと破壊したの。
計り知れない戦闘力を持つ兵器、“デウス”に脅威を抱いた創造者達は、デウスを強制的に起動停止状態とした。
そのコア毎に分解し、暴走原因の調査の為、星間移民船に載せ、他の星系にある惑星に移送しようとした。
分かたれたデウスは抵抗した。移送途中にその星間移民船を乗っ取ろうとした。でも予期せぬ創造者の抵抗にあい、船は大破。そして、この星に墜落したの。
墜落の際、大破もしくは地表との衝突による消滅を免れられないと結論したデウスは、その動力炉“ゾハル”から中枢部分を分離。
“ゾハル”……。全てのギアを駆動する、スレイブジェネレーターの親機であり、あなた達の使う、エーテル力の源。事象変移機関という、未来の可能性事象……エネルギーの変位を自在に創り出すことの出来る無限エネルギー機関。
ゾハルから分離した中枢“生体電脳カドモニ”は原始のこの惑星に着陸した。そして、来るべき日、再びデウスが復活するようその生体素子維持プラント“ペルソナ”を使用。そこから人間が創造された。それが天帝カインとガゼルの法院達……。
何故、ガゼルの法院はアニマの器と、あなた達の肉体を求めたのか解る?それはね……、法院の肉体は、ヒトとなる前は“デウス”を構成する中枢回路の生体素子の一部だったのよ。
アニマと呼ばれるメス型とアニムスと呼ばれるオス型の生体素子。それはデウスの端末兵器として対象となる機械と融合、機動端末としての能力も兼ね備えていた。
つまり、あなた達の使用していたギア・バーラーはその一形態なの。アニムスであった法院は、神の復活の刻、分かたれたアニマと合一するはずだった……。でも、500年前の戦いで、その肉体は失われてしまった。そこで、自分達の子孫であるヒトの遺伝子内に息づく、自分達の因子を取り出そうとしたの。アニマと一つになる為にね。
つまり、あなた方ヒトは、全てカイン達の子孫……。ペルソナから生まれたカイン達は子を産み、増やしていったの。いつの日か再び、大破してしまったデウスを復活させるというプログラムに命じられるままね。
この世界の人間は、全てデウスを復活させる為に創造されたの。
単にデウスを修復するだけじゃない。兵器デウスは、その構造の大半が生体部品で構築されていた。変異した人間達が居たでしょ?彼等はデウスの部品となるべく運命られたヒト達だったのよ。
ほぼ全てのヒトは、デウスの部品となるべく運命られているのよ。でもあなた達は違うわ。代を重ねることによってその本来の運命から解放されたヒト……と言ってもいいかしら……。
実際デウスの部品は足りなかった……。でも、それを補ってくれたのがカレルレン。彼の創りだしたナノマシンは代を重ねることによって希薄化した部品……ヒトの因子を補うだけでなかった。新たな機能も付加してくれた。デウスは兵器として完璧なものへと進化したの。」
「エリィ……お前は一体……?何故、そのことを……知って……」
「私はミァン。刻の管理者。神<デウス>の代弁者。ヒトをデウス復活の為、あるべき方向へと導く道標として生み出されたのが私なのよ。
ミァンの因子はね、全ての女性の中に息づいているの。世代を超越し、ヒトを管理する者。前任者が死ねば、どこかで後任のミァンが覚醒する。そうなるように遺伝子にプログラムされているの。誰がその跡を継ぐかは確率の問題。フェイ。私も、そこで倒れている元ミァンも、全ては同一の存在。デウスの部品。ヒトの管理者なのよ。解るかしら?
お話はこれくらいにしておきましょうか。デウスは目醒めたわ。私はデウスを構成する部品の一つ。だから一つにならなくてはならないの。」
話し終わると彼女は呆然とするフェイたちに背を向け、神を創造しうる存在はいずれ障害となる。だから消去する。私にはそうプログラムされて
いる。と言葉を残し、ナノマシンによって蘇ったカレルレンと共にデウスの繭へと向かった。
メルカバーが起動する中、エリィを追えたのはフェイだけだった。シタンたちはやむなく彼を残し脱出した。