ep34 深海にねむる少女 魂の在処
司教の後を追うエリィたちは、ゼボイムが見渡せるあの渡り廊下で追いついた。少女を取り返そうとしたその時、突然真紅のギアが現れあの赤い長髪の男が降りてきた。彼も少女を取り返そうとしているようだった。
真紅のギアを見たバルトは、ユグドラシルの恨みもあって男に突っかかって行った。男はイドと名乗り、バルトたちに襲い掛かった。イドは凄まじい程のエーテルを操り、リコですら全く歯が立たなかった。
あわやここで皆殺しかと思われた時、ワイズマンがギアに乗って現れイドを掴んだ。その隙にエリィたちはその場を離脱。司教を追ったが、既に時遅し。カレルレン艦は転移してしまった。
追撃のしようもなくユグドラシルに戻るエリィ達。その中でシタンは司教の言った「クビキを外す」と言う言葉が気に掛かっていた。カレルレンがナノマシンを使い、その昔リコやハマーのような亜人を作り出す事となったような実験を再び始めたら……。彼はそう危惧していた。
ユグドラシルに戻った彼らはギアハンガーでフェイに会った。彼は気づいたらギアに乗っていたという。
いまだふらつく彼をエリィたちが心配していると、ユグドラシルにアルカンシェルが接近したとの報があった。
フェイを休ませて迎撃に出たビリーたちの前に、ウェルス化した司教の乗るアルカンシェルが迫る。
そこへグラーフのギアが突如現れ
「我が拳は神の息吹。"堕ちたる種子"を開花させ、秘めたる力を紡ぎだす。美しき滅びの母の力を」
とアヴェ奪回作戦の時ヴァンダーカムのドーラに施したようにアルカンシェルに波動を注ぎ込み飛び去った。
新たな力を与えられたアルカンシェルは強固なエーテル障壁を展開し、全くダメージを受けなかった。
攻めあぐむビリーを見て司教は嬉しそうに笑い、そして高笑いと共に話し始めた。
「ふふ……苦しんでいますか?ジェサイアの息子!!4年前、私が貴方を見込んだのは、貴方の父上と、私の旧い友情の証でした…。共にゲブラー司令の座を争ったジェサイアとの憎悪にまみれた友情のね!
愛しあっていたラケルをケモノのように奪ったあげく、私があんなに欲したゲブラー至高の座までを、あっさり蹴飛ばして、ソラリスから姿を消したジェサイア!!
4年前、やっと見つけた地の果てには、すでに奴の姿は無く…奴に汚されたラケルと…汚れの証明…貴方と妹が…
私はかわいそうなラケルをカレルレン様の英知、ウェルスで救ってあげました……。
そしてもう一つ、貴方が今まで浄化してきたウェルスとは全てカレルレン様が術を施したただのヒト!貴方はヒトを屠っていたのです。外道な父親に相応しい、外道な息子じゃないですか!フハハハハ!さあ、ザンゲなさい!ジェサイアの息子!!」
「いいや、お前が悔いる事なんてひとつもないぜ、ビリー!」
ジェシーが小型のギア、バントラインに乗って現れた。バントラインの開発者であるシタンはそれが人間弾頭のキャノン砲である事を思い出しビリーを止めようとしたが、通信がつながらなかった。
キャノン砲に変形しレンマーツォの肩に乗った小型ギアのコックピットで、ジェシーはビリーに語りかけた。
「もう解ったろ、捏造された信仰なんてまやかしだ。本当の神や信仰は自分の中に見出すものなんだ。お前は倒したウェルスの顔を見た事があるか?ウェルス化するってのは凄まじく苦しいことなんだ。その苦しみから逃れるため人の血を求める。しかし、本当にその苦しみから解放される方法は消滅しかないんだ。お前に倒されたウェルスは、安らいだ顔をしていただろう?お前はウェルス化した人を救ってたんだ。お前の信仰心はまやかしじゃない。神はお前の中にいるんだよ!」
そう言うとジェシーは合図した。ビリーがトリガーを引き、ジェシーの乗った弾頭が放たれた。
その爆発によってアルカンシェルの障壁は消え、彼らはこれを撃破した。
落ち着きを取り戻したユグドラシルの甲板で、ビリーは妹プリメーラと共に空を見上げた。
「ビリー君…。私があんなものを作ったばっかりに…。」
謝るシタンに手を振って、ビリーは空に向けて銃を三発撃った。
「親父を送るにはこれが一番です……」
「そうだな…ありがとよ、息子」
なんとジェシーは生きていた。イカれた若者(シタン)が作ったポンコツ(バントライン)をいつまでもそのままにしておくワケにもいかず、既に改良してあったらしい。
父親の帰還に喜んで抱きついたプリメーラは、か細い声で「パパ」と口にした。
ビリーも妹に僕の名前も呼んでおくれ、と笑うのだった。