ep40 第一のゲート マルーの祈り

アンドヴァリを要塞から出した後、彼らは法王府の議事堂に集まっていた。

王都の部隊は既に王城へ入ったとの事だった。王都からの情報では、ニサンの西の大洞窟にゲートがあり、そこにシャーカーンが向かったと言う。バルトたちはすぐさまその洞窟へ急行した。


洞窟の奥には大きな扉があり、それを開いてさらに進むと巨大な空洞の中に造られたゲート発生装置があった。

その前でシャーカーンが待っていた。バルト達が臨戦態勢を取った時、どこからともなくグラーフが現れ、以前と同じように

「我が拳は神の息吹。"堕ちたる種子"を開花させ、秘めたる力を紡ぎだす。美しき滅びの母の力を」

と言ってシャーカーンに力を与え去っていった。

新たな力を得て、さらにゲートのエネルギーをも吸収したシャーカーンの攻撃は苛烈を極めたが、バルトにはアンドヴァリがあった。アヴェの危機を救うと言う伝説のギア・バーラーによってシャーカーンは討たれた。


アヴェ国民の歓呼の中、バルトは頼まれ事を果たすと言い王城のバルコニーに立った。


「アヴェ国民諸君、私は第18代アヴェ国王エドバルト4世の息子、バルトロメイ・ファティマ。第19代アヴェ国王である。

やむをえぬ状況の下、長年王城を離れ国民諸君には苦労をかけた事をまずは謝罪したい。

キスレブとの戦役で家族を亡くされた方々には特に申し訳なく思っている。

まずは早急にキスレブとの間に休戦をなし、両国犠牲者の補償を開始する。

徴兵され各地に派遣された市民もいずれ家族の元に帰ることができる。力を合わせてアヴェの復興を成し遂げよう。


もう一つ重大な知らせがある。

誰よりもアヴェの平和を願った前王エドバルト4世の遺志によって宣言する。

第19代アヴェ国王、バルトロメイ・ファティマの命により……

本日をもって王制を廃し、アヴェ全土を共和国家とする!」


突然の宣言に驚きを隠せないシグルドとメイソンは、バルトに理由を問いかけた

「これが、俺が親父から受けた遺言だ。二人とも、俺の王位の為に長年頑張ってくれてたのにゴメンな。俺はもう主でもなんでもない。お前達は自由だぜ。」

「甘いな。窓の外の大歓声が聞こえないか?民衆が新しい当主に選ぶのは君だ。今まで以上に忙しくなるぞ。

頭の切れる補佐が、必要なんじゃないのか?」

「そうだな雇ってやっても、いいな。」


その夜。バルトはメイソン卿に会いに行った。

「シグルドは、どういう生まれだ?あいつの目はブルー。ファティマの碧玉だ。」

するとメイソン卿は語った。先王はバルトの母親と知り合う以前に別の女性と恋仲にあったが、その女性はある日突然姿を消した。噂ではその後子供を生んだ、と。

「姿を消した?親父が捨てたのか?」

「いえ、私の知る限りでは、逆に陛下の方が捨てられたという事でした。」

「シグはアヴェ東方の砂漠の出だ。」

「いかにも。10歳の時にエドバルド陛下付きの騎士見習いに上がられたのでしたな。」


その話を聞いた後、バルトはシグルドに会いに行った。

彼の母親は自分が短命であるのを知り、死に別れることを恐れて当時の恋人の下を去ったのだと言う。シグルドが生まれた事は父親には知らされなかった。

「なぜ親父さんに言ってやらなかったんだ?自分は息子だ、って。」

「母が隠したかったのなら、そうしておきたかったのです。」

「今日の宣言にあった親父の遺言には続きがあるんだ。お前が得た物は、兄と分かち合いなさい。お前と兄の得たものは、全ての民と分かち合いなさい……ってさ。

ずっと、なんの事なんだか不思議だった。それを言っておきたくってさ。じゃ、おやすみ!」

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