ep15 マルー救出! 一路ニサンへ/やすらぎの都 ニサンの聖母
ラムサスからは逃げおおせたものの、フェイたちは軍に追われゲブラーの基地内に入り込んでしまった。逃走中のフェイはそこで黒月の森で出会ったエリィと偶然の再会を果たす。
彼女は追っ手が迫るフェイたちを自分の宿舎に連れ、匿った。
追っ手の気配が消えた後、疑問に思ったバルトが口を開いた。
「フェイ、説明してもらおうか。こいつの服を見ろ!ゲブラーの士官じゃねぇか!なんでお前がゲブラーの士官と面識があるんだよ?」
「ちょっと待ってくれ、バルト。こいつは、エリィは敵じゃないんだ。」
「どこで知り合ったか知らないが、こいつはどっからどう見てもゲブラーの士官だぞ?敵じゃないって、お前、わかってて言ってんのか?」
フェイは説明するが、納得のいかないバルト。そこにエリィが説明を始めた。
「そうよ。神聖ソラリス帝室特設外務庁…通称ゲブラー…。火軍<イグニス>突入三課少尉、エレハイム・ヴァンホーテン……。そして……キスレブの軍事工場に潜入して新型ギアを奪取、帰還途中追撃隊の攻撃を受けてあなたの村に不時着したのも…。
話そうと思ったわ、何度も……。けど言える訳ないじゃない。私が村に不時着したせいであんな事になったなんて聞いたら。…言えないわよ……」
「……知っていたさ。聞いていたんだ。エリィと先生の話。」
「だったら何故?」
「あれは……俺の責任なんだ。なのに俺はエリィに自分の感情をぶつけちまった……。すまないと思っている。あの事はもう忘れてくれ。エリィはエリィで必死だったんだから。」
その後、フェイはなぜここにいるのかの経緯をエリィに説明した。
フェイたちがマルー救出に来たと知ったエリィは、彼らをギアの射出口からなら脱出できると提案した。しかしバルトはまだ納得がいかないらしい。
「なるほどそいつは名案!…って素直に信じると思ってんのか?俺を甘く見るなよ!うまいこと言ってこの野郎、俺達をシャーカーンのハゲジジイに突き出すつもりだな!?だまされるなよ、フェイ!」
そこにマルーが口を挟んだ。
「待ってよ、若。この人そんな悪い人じゃないよ。ボク達を助けてくれるって言ってるんだから言うとおりにしようよ。」
「お前って奴は、どうしていつもそうなんだ。こいつはゲブラーの人間なんだぞ?お人好しにもほどがある!それに第一…
フェイ、お前はどうなんだよ?信じるのか? そいつを。」
「信じるも何も、俺の考えは最初から決まっている。」
「かーっ!ったく、どいつもこいつも!知らねぇぞ、どうなっても!」
エリィはギアの起動キーの認証番号をフェイ達に教えた。それと私にできるのはここまでだ、とも。脱出間際にフェイは一緒に行こうとエリィに言うが、彼女はここが自分の居場所だと悲しげに言った。
「今度会うときは……敵同士ね」
一方、フェイたちを追おうとしていたラムサスの元に伝令兵が訪れた。
「閣下……ヒュ……様が」
予想もしなかった訪問客にラムサスも驚きを隠せなかった。
「……奴め…今時分何用でここに」
無事フェイたちが帰還したユグドラシルは、マルーが教母を務めるニサン法皇府へ向かった。
その途上、フェイは様々な話を聞くことになる。
マルーがアヴェに捕らえられた事の顛末。以前バルトとマルーが王城から逃げ出した時に、王国の主力兵器であるユグドラシルをも奪ってきた事。ユグドラシルやギアの動力源、スレイブジェネレーターについて。
ゲブラー総司令のラムサスが着任した事により、ゲブラーの目的が遺跡発掘だけではない事。マルーの持ってきたぬいぐるみが、実はチュチュという妙な生物で、フェイに一目ぼれした事などなど……。
さらにフェイは、バーで話し合うシグルドとシタンの不可解な話をバルトと盗み聞きしてしまう。
様々な思惑を乗せたままユグドラシルはニサンに到着し、フェイたちは修道院へマルーを連れて行った。
そこでひとしきり修道女達と再会を喜び合ったマルーは、フェイたちを肖像画の間へと案内する。
ニサン建国の母でありニサンの教義を創った初代大教母ソフィア。描きかけの肖像画以外の記録は
残されていない彼女は、言い伝えでは500年前に人々の為に自らを犠牲にし、神の下に召されたという。
その肖像を見てフェイはエリィにそっくりだと言い、シタンはその絵画の筆運びがフェイに似ていると言った。
肖像画に見入るフェイの脳裏に、遠い日の記憶が蘇った。
この部屋でソフィアの肖像を描く自分。ソフィアは彼の事をラカンと呼んでいた。
修道院を後にした彼らはアヴェのニサン侵攻の情報を聞き、作戦を練るために宿屋へ向かった。
そこでバルトはゲブラーに詳しすぎるシグルドに説明を求めた。
シグルドとシタンは自らの経歴やソラリスについて語り始めた。
天空にあるソラリスは地上人をラムズと呼び、労働力として地上から拉致したのち洗脳している事。シグルドもそうしてソラリスへ行き政府の一員として活動していたが、出奔して戻ってきたという。
純粋なソラリス人は人口のおよそ1/4しかおらず、多くが地上から連れ去られたラムズと下層市民街に住むラムズの間に生まれた人間で、シタンとラムサスも下層市民街の生まれだった。
だが、卓絶した能力を持っていたラムサスは異例の速さで出世し、それまで身分重視だった体制を能力重視の体制に変えようとした。シタンとシグルドはその理想に同調し、共に助けあった。
しかし軍の要職に付いた二人はそこでソラリスと地上との関係を知った。単なる奴隷のような労働力だけではなく、『ドライブ』に代表される薬の実験体として地上人が使われている事も。
フェイはふとエリィもソラリスの軍人である事を思い出し、シタンに尋ねた。
「そのドライブとかって薬はソラリスの軍人なら誰もが使うものなのか?」
「少なくとも地上派遣部隊であるゲブラーの兵であれば誰もが使用しているでしょう。」
驚きを隠せないフェイ。
「お前、気になるんだろう?アイツ(エリィ)のことが。」
揶揄うように口を挟んだのはバルトだった。バルトは続ける。
「あったぜ。あいつの部屋に。
…にしても奴隷に被験体か…。とんでもねぇな。」
フェイに軽く嫌がらせした後、バルトは一息つくと言い外へ出た。そこへシタンが心配をしたのか、追ってきた。
「シグにあんな過去があったとはな。」
「まだ、シグルドを疑ってらっしゃる……?」
「……っつーか、まあ、あんまり突然だったんでな。何て言うか、もっと違う話を期待してたってとこはあるな。若い頃からの敵同士で……とかなんとかさ。それにしたって、さっきの話に比べりゃ、たいした事ないだろ?」
「ふむ。ところが、話を聞いてみたらそんな程度の事ではなかったと。かつてはあのゲブラーの将校と手を組んでいた事があり…おまけにそのゲブラーの背後には聞いた事もないような国が存在していた……。」
「何だよ、突っ掛かるような言い方だな。」
「いや、もちろんあなたを責めるつもりはありませんよ。ただね……彼の気持ちを考えるとあなたに打ち明けられなかったのも無理はなかっただろうと思うんですよ。
今までソラリスの他国に対する行動は、あくまで自国を維持する範囲を超えてはいなかった。それに、あなたもご覧になった通り、彼等の兵力は強大だ。彼としてはまず、このイグニス大陸の問題を片付けた後の……その次の段階として、ソラリスの事を考えていたのではないのかな。はやって勝ち目のない戦をするよりは、まずしっかりした地固めをするのが先決と考えるのも、自然な選択に思えます。」
「まるであいつと気持ちが通じ合ってるみたいな言い方だな。」
「まあ、確かに短い付き合いではありませんからね。それに、ソラリスを抜け出そうと決意するまでの間に、お互い色々話しましたから。」
「それなんだが……。何で逃げ出してきたんだ?例のラムサスって奴は“希望の星”だったんだろ?」
「ええ、確かに最初はそう思った。しかし、結局は彼の考えているのもそれまでの体制と同じだという事がわかったんです。簡単に言うと、階級を重んじるか能力を重んじるかの違いだけのね。所詮それは毛色が違うだけで依然としてソラリス自体と何ら変わるところはなかった。彼も全ての国民を救い上げようとまでは考えていなかったんですよ。」
「いわゆるエリート主義ってやつか。確かに俺も気に入らねえな。
なぁ、シタンさんよぉ。俺がゲブラーに勝てると思うか?」
「彼等と闘うつもりですか?」
「奴等がシャーカーンと手をくんでいる以上、避けては通れないだろ?このままだと、いつか奴等とは一戦交えなきゃいけないのは確実だと思うんだ。」
「そうですねえ……仮に、今この地にいるゲブラーの部隊に勝ったとしてもその先にはソラリスがいるという事は、その後も新たな勢力がやって来る可能性があります。下手をするとシャーカーン相手よりも長い戦いになるかもしれませんよ。いつまでも今の状態のままではかなりつらいんじゃないですか?もっと多くの人の力を借りる必要があると思いますね。」
「シャーカーンを倒してもゲブラーみたいなのはなくならないのか……。
つまり、あんたはこう言いたい訳なのか?“ゲブラーを倒したければまずは王座につけ”と?」
「ふむ……まぁ、そういう捉え方も出来るでしょうね。」
「なにが“そういう捉え方”だよ。まぁ、確かにそういう時期に来てるのかも知れんな。」