ep9 襲撃! 熱砂のシャチ
フェイは夢を見ていた。グラーフと拳法家が睨み合っている。そのそばには赤い長髪の男。
「我等が一つとなれば……」
そう言うグラーフに、拳法家は「こやつは渡さん」と長髪の男を庇った。
フェイはアヴェの護送船の中で目を覚ました。
彼が昨夜の出来事に思いを巡らせていると、シタンが心配なのか声を掛けてきた。
「フェイ?怪我でもしました?元気がないですね?」
「ああ…ちょっと、ね…」
「…あの黒衣の男、…あなたのお父さんがどうとか言っていた、あの事ですか…」
「ああ…それもあるけど…。
先生、俺は村が無くなるまで、自分自身に何の疑問も抱かず暮らしてきた。でも、今は違う。俺は…自分が何者なのか知りたい。こんな気持ちは初めてだ…」
フェイの心情は変わりつつあった。
「何か事を起こすにしても、囚われの身ではどうしようもありませんよ。とにかくもう少し休みましょう。そうすれば、いくらか気持ちの整理もつくでしょう。」
シタンの言うことも確かだった。フェイは再び眠りについた。
彼が寝入った後、シタンは一人天帝カインとの密談を思い返していた。
『福音の劫<とき>』。神の眠りと共に楽園から追放されたヒトが、再び楽園へと回帰する約束の刻。それまでに天帝以下ガゼルが神を復活出来ねば、原初からの定めどおり滅亡しよう。
カインはそうシタンに語った。その福音の劫が近づいている。シタンは確信した。
その頃、二人を収容して砂漠を行く護送船を狙う謎の潜砂艦があった。
「ビンゴ!情報通りだな。アヴェの輸送船…か。載ってる奴は…
間違いない!キスレブの新型! 例の強奪された奴だ!!」
謎の潜砂艦の正体は海賊の船、ユグドラシルであった。
甲板のヴェルトールを狙うユグドラシルに砲撃され、沈没寸前になる護送船。
その混乱に乗じて抜け出しヴェルトールで脱出したフェイとシタンだったが、息つくヒマもなく海賊の親玉「片目のバルト」の駆る赤いギア、ブリガンディアに襲われる。
アヴェ軍と思い込み問答無用で襲い掛かるバルトを、やむなくシタンを下ろして迎え撃つフェイ。
だがそこに流砂が現れ、二人を飲み込んだ。
二人の決着は付かないまま持ち越される事になった。