ep11 海賊アジト 戦う理由、死ぬ理由
ユグドラシルに合流しシタンと再会したフェイは、そのままバルト達のアジトまで同乗する事に。
アジトに到着した後、フェイとシタンはバルトの教育役である執事のメイソン卿に案内され食堂へ。
そこで二人はメイソン卿からバルトが宰相シャーカーンに滅ぼされたアヴェ王国の王子バルトロメイ・ファティマその人である事、先代王亡き後、アヴェの実権を握ったシャーカーンに幽閉されていた所をシグルドらが救出した事、その後王権奪還の兵力を養うために海賊行為をしていた事を聞かされた。
さらにバルトの従妹であり、ニサン法皇府の教母でもあるマルーが『ファティマの至宝』入手を狙うシャーカーンに囚われている事を聞かされた。マルーはファティマの至宝の在り処を記した『ファティマの碧玉』の半片を持っているのだ。
ファティマの至宝とは何か、と言うところまで話が及んだとき、バルトが食堂に現れ至宝について書かれた絵巻物を見せると言ってフェイたちを作戦室に連れて行った。
スクリーンに映し出された500年ほど前の絵巻には、炎を纏った巨人の力を借りてアヴェを建国したファティマ一世が巨人をとある場所に眠らせた、という事が書かれていた。その巨人が至宝なのだと言う。
「そこでだ。あんたらを助けたついでに一つ頼みたい事がある。」
「ひょっとして…彼女の救出を助勢してくれ、ですか?」
バルトはマルー救出の助力を願い出た。シタンは一宿一飯の恩義があるので役に立たせて欲しいと言うが、フェイは黙ってしまっている。
「なぁ、お前の力が欲しいんだよ。鍾乳洞でのアレ、凄かったじゃねぇか。あの力がありゃあシャーカーン部隊の十や二十、ものの数じゃないぜ?」
フェイを勧誘するバルトだったが…
「なんでみんな俺を戦わせたがるんだっ!?
俺は今それどころじゃないんだ!力が欲しい?俺にそんなものはないんだよっ!なのに、お前も先生もあの男も、何故みんなで…。俺は考えなきゃいけないことだらけなんだ!あのギアの事や、グラーフと親父の事…。そんな事に付き合ってられる程、俺は暇じゃない!」
これまでの出来事に頭がパンク寸前だったフェイは、逃げる様に作戦室から出て行ってしまった。
バルトはシタンからフェイのこれまでの経緯を聞き、フェイの後を追った。
フェイを捕まえ、再び説得するバルトだったが、彼はやはり戦いを拒んだ。
「俺はバルトみたいに戦いが好きじゃない。ギアにも行きがかり上、仕方なく乗っているだけだ。出来れば乗りたくない。そんなにあれが欲しければやるよ。」
「俺が好きで戦っている…、ってのか?」
「そうだろ?どう見てもそうとしか思えない。戦いを楽しんでいるようにしか俺には見えない。」
「聞き捨てならねぇな。今のは。誰が好きで戦ってるって?撤回しろよ。俺には好きとか嫌いとかじゃなく、戦わなくちゃいけない理由があるんだ。それをお前は…」
「俺には戦う理由なんかないんだよ!戦いたくもない。静かに暮らしていたいだけなんだ。なのに何故そうまでして俺をギアに乗せたがる!?何故そっとしておいてくれない!?
俺は嫌なんだ!俺がギアに乗れば誰かが必ず傷付く。俺が戦えば誰かが必ず犠牲になる。もうだれも傷付けたくない!誰も犠牲にしたくないんだ!嫌なんだよ…そういうの…」
「ふん。目の前の現実から逃げたい気持ち、わからん訳じゃないがな…。お前、そんな事で遺された村の子供達が納得するとでも思ってんのか?
ラハンでの一件なら先生から聞いたよ。だからってお前、何もしないでいていいのか?たしかに直接的にはお前がギアに乗った事での出来事かもしれない。しかしな、お前がギアに乗らなくても犠牲者は出ていた。多分な。
原因はお前じゃない。戦争、いやそういったものを引き起こす人間に原因があるんだ。だったらその原因を取り除かなきゃなんにもなんねぇだろ。
原因を無くす為に戦う…。今は他にいい方法がないからそうするしかねぇが、少なくとも俺はその為に戦っている。別に好きで戦っている訳じゃない。
お前が村の子供達に対して罪の意識を持っているのはわかる。傷付けたくないのもわかる。けどな、その子供達に罪滅ぼしをしたいってのならば、争いは無くさなきゃいけないんじゃないのか?
お前にだって戦う理由はあるんだよ。戦わなくちゃいけない理由がな。だが、その戦いを放棄してお前が逃げ回っている限り、村の子供達は絶対にお前の事を許しちゃくれねぇ。それだけは憶えとけ。」
それだけ言うと、バルトは立ち去った。
暫く佇んでいたフェイは、シグルドに呼ばれ甲板に連れて行かれた。シグルドがあれを見てくれ、と艦首の方を指すと、艦首で郷愁にふけるバルトがいた。
「若が君に謝っておいてくれ、とね。自分で謝ればいいのに。素直じゃないんだよ、若は…。
ああ見えても結構寂しがり屋でね。友人を求めているんだ…。いつも。だが我々は彼の友人にはなれない。否、我々がそのつもりでも彼はそう見ようとしないだろう。それを若はわかっているんだよ。何故かって?それは若の背負っているものの
重さ故なんだ。あの若さでそれら全ての重荷を背負うのは辛いことだ。しかし若はそれに応えようとしてくれている、精一杯ね。だから我々は若に付き従っているんだよ。別に王子だからとかそういうのではなくてね。
フェイ君、きっと君も何か途方もない重荷を背負っているんだろう。これは私からの勝手なお願いだが、若を助けてやってはくれまいか?彼の重荷を背負ってくれ、というのではないんだ。若と何かを…君達にしか解らない何かを共有してやってはくれないか。お願いだ。」
シグルドの願いに、フェイはただ考えさせてくれ、と答えるしかできなかった。
その夜、アジトに侵入警報が鳴り響いた。ランクという男を隊長とする、ゲブラー特殊部隊のギアだった。
バルトたちが迎撃に向かう中、混乱を極める状況をみながら自分は何をするべきか、何をしたいのかと苦悩するフェイの姿があった。
一方格納庫から出力未調整のじゃじゃ馬ギアであるヘイムダルに乗って出撃したシタンは、特殊部隊のタフさから戦意高揚剤『ドライブ』を服用している事に気がついた。
その頃特殊部隊の1人、フランツのギアが子供達に迫っていた。
「どこへ行こうってんだい?ケナゲだねぇ…さぁて、君はどんな声でさえずってくれるのかな?」
だが間一髪の所でヴェルトールが駆けつけた。
「お前たちはなぜ戦う!」
「こ、こいつ何言ってやがる!?」
「戦って何を得られる!?自分の居場所があるっていうのか!!」
フェイの加勢もあって特殊部隊は撤退、アジトを守りきった。
アジトの混乱も落ち着いた頃。協力してくれたフェイに感謝の言葉をかけるバルト達。フェイは彼らに語りかけた。
「俺…、まだ、自分が何をすればいいのか分からないんだ。バルトのしていることは私利私欲のためじゃない。周囲の人々の幸せを願って一歩一歩自分の信じた道を歩んでいる。それに比べて俺は……。
俺、自分の前には進むべき道がないと思っていた。でもあいつの言うように、それはただ逃げているだけ。道は自分で見つけなきゃいけない。そうだよね、先生?
バルトが望んでるなら俺、協力するよ。今はそれしか出来ないから…。でも、その中で自分の進むべき道を見つけようと思うんだ。それにあんな恐ろしい連中をほっとけないよ。」
その後彼らはマルー救出のため、ユグドラシルに乗って王都ブレイダブリクに向かった。