ep6 緑の静寂をやぶるもの
フェイは夢を見ていた。砂漠の真ん中で幼い彼が泣いている。
そんな彼にエリィに良く似た女性が手を差し伸べた。
「ひとりじゃ、寂しいものね…」
彼女の優しい微笑みに、幼いフェイは泣き止んで手を取ろうとした。
そこで彼はエリィに起こされた。
二人は、念のためメモリーキューブ(注1)に記録し、森の出口を探し始めた。
「ねぇ…昨日言ってたでしょ?俺には生きる価値がないって。」
道すがら、エリィはフェイに自殺志願のような昨日の行動について尋ねた。
フェイはラハン村で起こった出来事を話し、最初のギアさえ村に来なければと吐き捨てた。
それを聞いたエリィは、その夜の事を思い出していた。
キスレブから最新型のギアを奪取した彼女は帰還途中に追撃機の弾丸を受け、ラハン村に小隊と共に不時着したのだった。
そんな彼女の行動など露知らず、フェイは奴らさえ来なければと罵り続けた。
「いい加減にしてっ!あなた卑怯よ!」
「卑怯?俺が?」
「だってそうでしょ?さっきから聞いていれば奴ら、奴らって。あなた自分にはなんの責任も無いって言い方してるじゃない!」
耐え切れなくなったエリィは、彼を断じ激しく責めた。
「ああ、そうかもな…
そうさ、俺は卑怯者なんだよ。そんなのは最初からわかってるさ。自分の力量も知らないで、結果を他人のせいにして泣き言を言ってるだけの情けない男さ…
だけど…あの時なぜだか無性に血が騒いでどうしようもなかったんだ!自分では他にどうしようも…」
嘆いたフェイは、親しい人達を自ら殺めた悲しみと苦しみを吐き出してへたり込んだ。
そんな彼にかける言葉が見つからず、エリィは一人で歩き出した。
彼女は彼を責めた事を悔やんだ。
彼女の脳裏に、数人の死体に囲まれ、返り血を浴びて呆然とする自分の姿が浮かんだ。
俯きながら歩く彼女の前に、突然巨大な地竜が現れた。
うずくまっていたフェイは、エリィの悲鳴を聞いて駆け出した。
「エリィ、大丈夫かっ!?くそっ、気を失っている!」
彼は地竜の前で気を失っている彼女を見つけると、無謀にも地竜に挑みかかっていった。
そこへシタンが現れた。
「フェイ!探しましたよ。さあ、これを使ってください!」
彼はランドクラブであのギアを運んできたのだ。
「な!?ちょっと待ってくれ!これをって言われても…」
困惑するフェイ。しかし地竜の相手をするにはそのギアで戦うしかない。
「先生!頼みがある!この化けモンは俺が必ず倒す。だけど、もし前のように途中で暴走しそうになった時は、俺ごと撃ってくれっ!」
そうシタンに頼んだフェイはエリィを助けるためにやむなくそのギアに乗り、地竜を撃退した。
「先生。なんでこいつを運んできたんだ?」
「こいつって…ヴェルトールの事ですか?」
「ヴェルトール?…こいつは村を破壊した元凶のギアじゃないか。なんだってそんなものをわざわざ?俺は、ギアなんてもう二度と見たくなかったのに…」
フェイはそのヴェルトールと言うギアを持ってきたシタンを責めた。
「フェイ、力に使われるも力を使うも、それは人間の側の心の問題…。人が間違った使い方さえしなければ、それは良き力となり我々を助けてくれるものと信じています。それにあなたならきっと大丈夫ですよ。現にその方を助けられたではないですか。違いますか?」
フェイをなだめるシタン。
話を切り上げ、2人はエリィの介抱に向かった。
夜。ヴェルトールの整備をしていたシタンは、眠らずにいるエリィにソラリスの言葉で語りかけた。
シタンは彼女がゲブラーの士官だと分かっている事を仄めかし、フェイが眠っているうちに去って欲しいと彼女に告げた。彼はフェイを不毛な争いに巻き込みたくないのだ。
エリィはフェイに謝っておいて欲しいと彼に伝言を頼んだ。
シタンは選民思想のソラリスの人間らしくないと疑問を口にした。
『牧羊者<アバル>は地上人<ラムズ>を管理統制し、その生殺与奪の権利も持つ……』
彼女はフェイを見て、地上人がソラリスの人間となんら変わりないと言う事に気づいたのだ。
エリィは隊に復帰した後どうするか悩みながら夜の中へ去って行った。