ep53 失われし約束の地
フェイたちを助けたくば『ゴルゴダの地』まで来い。カレルレンからのメッセージを受け取ったエリィはランクたちの制止を振り切り、シェバトに残されていたギア・バーラーに乗って単身出撃した。
フェイと仲間達を助けたい。その想いだけでカレルレンの前に立った彼女は、カレルレンの部下達を一旦は退けるも力尽きて捕らえられた。
限界を超えた力を発揮したエリィを見たカレルレンは、何かに気付いたようだった。
「真の覚醒……それとも……主を護ったか。いずれにせよ、私の求めていた存在<はは>であることに間違いない……。」
「よし、機体の回収をしろ。搭乗者の確保が最優先だ。搭乗者の生命維持を!
では、この娘はいただいていく。お前達はそこで己の無力さでもかみしめているといい。」
何もできなかったフェイ。グラーフが呟いた。
「……哀れよな。一人の女すら守れんとは。
ふぬけたお前なぞ、止めを刺す価値すらないわ。」
エリィを手中にしたカレルレンは、行動を開始した。ガゼルのメモリーを消去し始めたのだ。
「な、何をする!カレルレン、血迷ったか!?」
「メモリーバンクをなんとする!?」
「それに触れるな!それが無くなれば我等は…」
慌てふためくガゼル達。カレルレンは冷たく宣った。
「鍵はお前達でなければ作動できなかったからな。だが、その発動なった今、お前達の存在価値はない。お前達には消えてもらうことにするよ。
“私”の目的遂行の為の、唯一の障害であったカインは、もういない。私達“ヒト”に対して絶対的行使力を持ったカインは私の障害だった。
カインを消し去ることが出来るのは、カインのみ。その為に創り育てた“カインのコピー”ラムサスは思惑通り動き、そしてカインを消去してくれた。
“私”を止める者は最早ない。それに私は、貴様らの求める権力なぞには興味がない。お前達は、自己意志決定をしているつもりか?システムに縛られしモノ達よ。
所詮、お前達などは、侵略制圧兵器として創られた端末でしかないのだよ。」
徐々に消えゆくガゼル達。
「我……等は神に……なれるのだぞ!そ……れを……」
「神?誰が神になるというのだ?おこがましいことを言う。私達はヒトだ。神の端末として生成された貴様らとて、それは同じこと。
“ヒトは神になれぬ”のだよ。私達に出来ることは、ただその身を神に委ねることだけだ。」
「ば……カな……母ノ……意……しにハン…す……コト……をし…………」
「反してはいないさ。これはもう一人の彼女の意志でもある。」
「我……が消失……て……カミの……ふっか…つが……なせ……ると……オモ……ウのカ……」
「それが、出来るのだよ。崩壊の日々の後、世界を存続させる為に放った貴様らの遺伝子はヒトの中に息づいている。
器<アニマ>と同調者<アニムス>……。そして<ペルソナ>……。それらと私のナノマシンを結合させることによって、ヒトは貴様らと同等の存在となる。いや、それ以上の、神の端末に相応しい存在となる事が出来るのだ。
貴様らの存在価値は最早ない。神<デウス>は結果のみを求めている。過程なぞ、どうでもいいのだ。それが私の“方舟計画”。即ち<プロジェクト・ノア>。
もう、これでわずらい悩まされることもなかろう。一足先に心静かにお休み。ヒトの始祖達よ……」
ガゼルのモニターは全て沈黙した。
「これで私は、あなたと……ソフィアよ……これで……」
一方、グラーフに完膚なきまでにやられエリィをも連れ去られてしまったフェイは己の無力さに打ちひしがれていた。そこにワイズマンが現れた。
「そこで何をしておる?」
「あんたか……。俺は……グラーフに勝てなかった……。奴の足下にも及ばなかった……。そりゃあそうだよ。あんな化け物みたいな機体に乗ってる奴に、勝てるわけがなかったんだ……。
だのに……エリィは馬鹿だ……。
あれ程来るなと言ったのに……。逃げろと言ったのに……。ワナだと判っていたはずなのに。」
「……ふむ。たしかにそれでは勝てんな……。お前がそんな気持ちで戦っていたのではな。
お前が奴に敗れ、あの娘が連れ去られてしまったのは、ひとえにお前の慢心から。制御出来るとおごり、さっかくした『イドの力』、機体の力に頼り切っていたからなのではないか?グラーフの力の源はなんだ?機体か? 技能か? 経験か?
違うな……。……それは想いだ。
奴の心は、この世界全てに対する怒りに支配されている。その怒りの想いこそが奴の力の源なのだ。お前には、そのグラーフに対抗するだけの想いがなかった。だから奴に勝てなかったのだ。それが強さだ。
本当の強さが何か解らないまま、戦っていたのでは無理もなかったな……。」
「あの娘は……。お前達を助けたい一心で恐怖心を振り払い、あの機体に乗ったのだぞ。
その想いがあったからこそ、結果として、お前達は生き残った……私はそう思うよ。たしかにお前は敗れた。だが、これで終わった訳ではない。
お前は彼女の想いにどう応える?今度はお前が彼女を助ける番。……違うか?
さあ、お前はこれからどうするのだ?……フェイよ。」