ep17 緋の鬼神 悲しみは熱砂の海に
国境の前線部隊の裏を付いたフェイたちは一気に旗艦キファインゼルを目指した。
彼らを迎え撃つ司令官は、筋肉脳ヴァンダーカム。彼は迎撃のギアを下がらせ、主砲による決着を図った。
しかし機動力で遥かに上回るヴェルトール以下ギア部隊は、砲弾を回避しつつ着実に進撃。
キファインゼルに取り付いて主砲を破壊した。
退艦命令が発令され乗員がヴァンダーカムを無視して退避する中、彼は巨大ギア、ドーラに乗り出撃する。
通常の数倍はあろうかと言う巨体とその装甲の厚さに手を焼きつつ、それでもフェイらはこれを撃破した。
度重なる敗戦に呆然とするヴァンダーカムの前に、突然グラーフのギアが現れた。
「我が拳は神の息吹。"堕ちたる種子"を開花させ、秘めたる力を紡ぎだす。美しき滅びの母の力を」
グラーフのギアの右腕から発せられた波動がドーラに注がれた。
その頃王都を離脱しニサンに向かっていたユグドラシルは、ラムサスの駆る潜砂艦の攻撃を受けていた。
推進器にダメージを受け浮上するユグドラシルを前に、ラムサスは攻撃中止命令を出した。
「あら、お迷いになるなんて珍しい」
不思議がるミァン。
「古い友人と約束してな。手加減せねばならん」
ラムサスはシグルドがソラリスを出奔するときの事を思い出していた…
「シグルド!なぜお前はこの国を捨てる!?俺達の理想国家の実現の為、力を貸してくれるんじゃなかったのか!?」
「捨てるわけじゃないさカール。俺は最初からこの国の技術を盗む為に生きてきたんだ。
それに俺には、待ってる人がいるんだ。恨むなよ?
お前達と語った束の間の夢、悪くはなかったぜ」
「…裏切り者!!」
記憶を巡ったラムサスは、ユグドラシルに通信で自分の名を語り、ニサンの無事を祈るなら投稿しろ、と伝えるのだった。
グラーフのギアが去った後、ドーラは突然再起動して襲い掛かってきた。それまでとは桁違いの破壊力に、ヴェルトール以外のギアが次々と大破していく。その光景を前に、フェイは次第に壊れていった。
ユグドラシルを取り囲んだ艦隊に異常事態が起こった。
突然現れた真紅のギアに次々と艦が沈められて行く。ラムサスがエルルの悪夢と呼ぶ、あの時のギアだった。
そのギアを見止めたラムサスは、目の色を変えて飛び出した。
ブリガンディアに迫らんとする真紅のギア。そこへラムサスの駆る専用ギア、ワイバーンが割り込んだ。だが、ワイバーンは一撃の下に腕を飛ばされてしまう。
ラムサスがあっさりと退場した後、真紅のギアは再びブリガンディアに迫り語りかけた。
「モーターのコイルもいい塩梅にあたたまった。そろそろメインイベントと行こうか」
その時、ユグドラシルが全速で突っ走り砂丘のクレストを利用してジャンプ。真紅のギアにのしかかった。
しかし、真紅のギアはユグドラシルを片手で受け止め、そのままブリガンディアに放り投げた。
地面に叩きつけられた艦は壊滅的なダメージを受けた。艦内が混乱を極める中、シグルドはシタンをヘイムダルと共に脱出させた。そしてユグドラシルは砂の海に沈んで行った。
ヘイムダルを乗せた脱出ポッドは風に流され、国境付近に不時着した。
そこでシタンの見たのは、見るも無残に破壊されたドーラの残骸だった。
「この有様……やはり同じですね……」