ep51 天帝暗殺 マハノン浮上!!

カインにカレルレンとラムサスが迫った。ガゼルの差し金か、と言う天帝の言葉にカレルレンは首を振った。

「まさか。彼らの妄執に興味はない。私は私のやり方で人を導く。お前は邪魔なのだ」

ラムサスの剣が振られ、天帝カインは崩れた。


カインの死を受けて、ガゼルの法院はついに『ゲーティアの小鍵』を発動させた。

それにより今まで変異していなかった者までもが変異を始め、彼らの叫び声に呼ばれるように海底に没していた神の眠る楽園マハノンが浮上した。

ガゼルは変異したソラリス人を人機融合兵器に作り変えた大軍をマハノンに差し向けた。

ガゼルがマハノンに眠る神の知恵を手に入れるのを阻止しようと、フェイたちは総力を結集した。

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ep50 星よ知る、我らが魂の器

地上の混乱が沈静化した頃、フェイたちはガゼルに対抗しえる力、ギア・バーラーを手に入れる為、その素体となるアニマの器を探していた。

ゼファー達からの情報を元に探索を続けた彼らは、太古文明の遺跡でついにそれを発見した。

そのアニマの器はビリーと同調。レンマーツォと同化してE・レンマーツォが誕生した。

目的を達し帰還しようとした彼らをエレメンツの四人が待ち受けていた。彼女らは自らの専用ギアを超獣合体させた巨大ギア、Gエレメンツで襲い掛かったが、フェイたちはこれを撃破した。

もう戦う理由はない。去っていくエレメンツに、エリィはそう声をかけた。


ガゼルの法院は、カイン暗殺の策を練っていた。それにはカインと同じ力を持つラムサスが必要だった。

ミァンはもはや前後不覚の狂人となったラムサスをさらに追い込むべく、彼をニサンへ向かわせた。

ラムサスはドミニアたちが止めるのも聞かず、ギア・パーラーで出撃した。


その頃、最後の『アニマの器』を探すフェイたちと離れ、エリィはニサンへと戻っていた。

そこへラムサスが襲撃。フェイを求めるラムサスの前にエリィは立った。

「何が貴方をそこまでさせるの……?」

「俺は天帝の能力を持つ者、即ち完全なヒトとして創られた。しかし、フェイが生まれた事で俺は廃棄され、塵溜めの中で生を受けた。俺は必死に今の地位まで這い上がった!だが、ヤツはまた俺の前に立ちふさがった!俺から全てを奪ったヤツが! ヤツがいる限り俺は……。貴様も俺から奪うのか!?俺がやっと手にしたぬくもりを奪うのか!」

「ラムサス、誰も貴方を攻撃しないわ。心を開いて。愛におびえないで……

彼女の言葉に困惑したラムサスは、おびえたように飛び去った。


「塵め

「なんの為のその存在か……

「出来損ない……

「失せろ……

「最早、貴様は用済み……

「否。用すらなさない塵だ……

何も出来ずに帰還したラムサスは、ガゼルから見放された。そんな彼にミァンが優しく語り掛けるも、ラムサスは納得がいかないようだった。

「ミァン!俺の、俺の力はこれだけなのか?この程度の力しか、俺にはないというのか?奴に勝てず、あの女の前でも何一つ出来なかった。俺はここまでの存在なのか!俺の能力は

取り乱すラムサスにカレルレンが語り掛けた。

……カインと同じだよ。全てのヒトを超越する原初の存在。そのように、この私がお前を創ったのだからな。

お前の力の解放を妨げているのが、あの男だ。分かたれた力。お前の原形となった男。原初からの時の超越者。それさえ消し去ればお前は……。」

「そう。優れた素質を持ちながら、オリジナルが存在するが故に、貴方は、うとまれる。分かたれた力を消し去れば、全ては貴方のもの。そうでしょ?カール……。」


『アニマの器』を探すフェイたちは、原初民の遺跡で最後の器を見つけた。リコと同調した器はシューティアと同化。E・シューティアが誕生した。

その帰り道で彼らを待ち受けていたのは、ギアと人機融合したハマーだった。

「お、俺っちも手に入れたですよ。兄貴達と同じ位、強い力を。き、気持ちいいっすよ、ギアと一つになれるってのは。これもカレルレン様のお陰っす。さあ、そのギアとエリィさんをお、置いていってもらうっす。抵抗しても無駄っすよ。今の俺っちは、とんでもなくつ、強いんすから

激しい攻撃を仕掛けるハマーに、フェイたちはやむを得ず応戦した。

戦力の差は、明らかだった。

「へへへ……。いやぁ……やっぱ兄貴は強いっす……。折角俺っちも強くなったってのに

キング……。キスレブにいつか戻って下さいね……。あなたは、総統の正統な血筋を受け継ぐ方……

リコは己のみにしまっていた事実を知るハマーに驚きを隠せなかった。

「俺っちの情報網を甘く見ちゃあいけませんぜ。でも、ダメっすね。俺っちは

……こういうのが端役の俺っちには……相応しい終わり方かも……しれないっす……

ハマーは満ち足りた笑顔を残し、自らを絶った。

『束の間得られた力』、ハマーはそれを得られて

幸せだったのだろうか?ハマーの笑顔、それは力を得られた喜びなのだろうか?それとも変異による苦痛から解放された安らぎからだろうか?仲間であったハマーの最後に、フェイ達は戦いの虚しさを感じた。

エリィはいつまでも泣いていた。何もしてやれなかった自分の力のなさを悔やんで泣いていた。フェイはそんなエリィを見て、これ以上彼女を戦わせることは出来ないと思うのだった。

一行はやりきれない気持ちのまま、イグニスに戻った。

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ep49 反撃開始!! 刻印を打ち破れ

シェバトに向かうフェイの前に、ギア・バーラーに乗ったラムサスが立ちふさがった。フェイはシステム・イドを発動、これを撃破した。「お前さえいなければ」そういい残し、ラムサスは樹海に消えていった。


エリィたちはソラリス守護天使時代に搭乗していたギア・パーラー、E・フェンリルを駆るシタンの活躍もあり、無地に砲台に到達した。

射出され、大気中に散布されたナノマシンは増殖しながら世界中に広まっていった。


シェバトに着いたフェイはバルトたちと合流。機動要塞撃破の為の最終兵器を手にするためキスレブへ。

キスレブ総統府の真の姿。それは500年前にロニ・ファティマが建造した秘戦艦だった。過去の記録からその事を突き止めた彼らは数百年ぶりに総統府を起動。ユグドラシルを制御中枢として急襲形態へと変形し通常のギアの数十倍はあろうかと言う巨大ギアとなった総統府は、機動要塞をあっさりと撃破したのだった。


和平は成され、地上に平和が訪れた。沸き返る人々を祝福するかのように、エリィたちによって散布されたナノマシンが、光りながら彼らの上に降り注いだ。

異変は突然始まった。人々がウェルス化し始めたのだ。それは刻印<リミッター>が外され、本来の能力が開花したヒトの姿だった。「"普通"の人間がどうなるか」フェイはソラリスでのハマーの言葉を思い返していた。


エテメンアンキの崩壊から逃れたガゼル達はヒトの変化に何かを感じ取ったようだった。

「神の復活が近づいた為の自然発芽か。神の下僕となる者……鍵を使わずともこれほどいたとは」

「発芽しない者は神の肉体に定められし者か、あるいは神に仇なす者か……

「要所のソイレントを再起動しよう。中途半端な変異。このままでは使い物にならん」


「あなたによって抑えられていた『鎖』が外れたようね」

ミァンがカレルレンに語りかけた。

「問題ない。先の帝都壊滅の際、大気に拡散するようにナノマシンウィルスを仕掛けておいた。現在のヒトの異形化はその初期段階だ。ウィルスは、発芽した原体をコントロールできるものへと変化させている。鍵に頼らずに目覚める者は、神本来の肉体を乗っ取る為に必要なのだ」

「神との同化の際に放たれるトロイの木馬……でも、あの子たちの思惑とは違うわね」

「当然だ。『神の方舟』は私のものだ。」

「私にとってはどちらでもいい事……。確実な方につくだけだから」


世界の至る所に存在するソイレントシステム。それは、ウェルス化した人々を分解、再構築し、生物兵器を作る装置だった。それが"M計画"の真相。ウェルス化した人々はそこに集まっていた。耐え難い苦しみを和らげ、短い命を長らえるため健常者の血肉を求める彼らは、ソイレントが苦痛から開放してくれると信じていたのだ。フェイたちは各地のソイレントを破壊する為、そこへ赴いた。

そこに集っていた人々に自らの血を与え、エリィは語った。

「癒しのために私の血肉が必要ならばいくらでもあげます。だから、人としての尊厳だけは捨てないで!」

やがて、ソイレントの人々はニサンに収容され、トーラのナノマシンによる治療を受ける事となった。

各地から集まり心の救いを得た人々は、献身的に介護するエリィを『聖母ソフィア』の再来と呼ぶようになった。


その状況を知ったガゼルは、人々の決起を恐れ、『ゲーティアの小鍵』を発動させようとした。しかし、天帝カインはガゼルが抗えぬ力でそれを押し止めた。もはやヒトに主はいらぬ。カインはそう言った。

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ep48 撃墜!! 大樹海に消えて

フェイは夢を見ていた。何人もの"接触"の生涯。エリィも夢を見ていた。何人もの"エリィ"の生涯。

二人はその夢を見たことで、それぞれが何をすべきかを掴みかけた。


森の中にひっそりと佇む住居。そこはバルタザール、ガスパールと並びシェバト三賢者と称される老人、トーラ・メルキオールの研究所だった。その研究所のナノリアクター内でフェイとエリィは目覚めた。

三週間前、血まみれで倒れていたフェイとエリィを発見したトーラは二人を連れ帰り、ナノマシンで治療したのだと言う。旧知の間柄であるシタンから二人の事を聞いていた彼は、フェイたちが眠っていた間にナノ技術を用いてイドの発現を抑制する腕輪を開発。バル爺の協力も得て、ヴェルトールにも同様の装置を取り付け、イドの力だけを任意に解放できる「システム・イド」を完成させた。


目覚めた二人はトーラから人々に刻まれたリミッターを解除する為のナノマシンを渡された。それを広域に散布するため、彼らは古代の砲台に向かう事にした。

彼らが出発しようとすると、シェバトの使者が現れてフェイに助力を求めた。アヴェ・キスレブの和平調印式が行われているシェバトに、ソラリスの機動要塞が接近していたのだ。

掌を返したシェバトの態度にトーラは怒りを露にしたが、フェイは人々を守るためにシェバトへ行く事に。

フェイたちが外へ出るとシタンとエメラダがおり、事情を聞いた二人はエリィと共に砲台に向かう事になった。


フェイの出発を見送った後、シタンはエリィに尋ねた。

「いいんですか? フェイの為に戦場から離れ、静かに暮らそうとしてたのに」

「私、現実から逃げてるって気づいたんです。最初は、フェイなら私の気持ちほ理解してくれるかもって思ってた。本当に好きだったかどうか……。両親を亡くして自棄になってたのかもしれない……。だから、一度離れて自分の気持ちを確かめたいんです……


フェイたちが出発した後、トーラの下にグラーフが現れた。

「やはり……あの二人をここまで運んだのはお前か。すぐに気づいたよ。あの頃のお前と彼女に瓜二つなのだからな……ラカン


ガゼルの法院はフェイが生きていることを知り動揺していた。カレルレンは提案する。

「ヤツには再びラムサスを差し向ける。依存はあるまい」

「娘はどうする。鍵が鳴動を始めておる。神の復活が近づきつつあるのだ」

「娘の回収はいつでもできる。今でなくともな……

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ep46 疑惑 死のカレルレン研究所

フェイとシタンの二人は、ダストシュートにいた。扉が開けられず思案に暮れている二人に、エリィが合流した。

エリィは一通り事情を話すとエーリッヒのIDカードを使って扉を開けた。


ダストシュートから出て少し行くと、レトルトパックや缶詰などが保管されている倉庫のような部屋に出た。

その先がソイレントシステムと呼ばれる施設になっているようだった。

「おー。食い物があるぜ。ちょっと食っていこうぜ。」

「そうね。この先何があるかわからないし。贅沢は言っていられないわね」

それまで飲まず食わずだったフェイとエリィは、倉庫にあった缶詰の肉で簡単な食事を取ることにした。

「先生もどうだい?」

「いいえ、私は遠慮しておきます。」

「そうかい?じゃあ俺たちは失礼して。いただきまーす」

食事を済ませたフェイ達は、先に進んだ。

そこは、先ほどの缶詰などを作っている工場のようだった。何かの動物がプレス機でミンチにされ、ベルトコンベアに乗って流れていた。

「いやね……何の肉かしら」

「作ってる所は見たくないな……

不快感を示すエリィとフェイ。そこにシタンが言う。

「待ちなさい。貴方達は先ほどあの缶詰を食べました。それをよく認識して先に進んでください」

彼の言葉に不安を覚えながら、フェイとエリィは先へ進んだ。

そこで二人が見たものは死んだウェルス、つまりは人がコンベアで運ばれミンチにされる光景だった。

「ここれは。ままさか

「そんな。嘘でしょ

「な何だよ。これは、一体何なんだよ!!」

ショックを受けたフェイの脳裏に幼い頃の記憶がフラッシュバックした。

どこかの研究室の寝台に寝かされた彼。ガラスの向こうでは彼の母が冷たい目で彼を見ていた。


口を押さえうずくまるエリィ、へたり込むフェイ。シタンが淡々と語った。

「ソイレントシステム。ソラリスの生体実験場とその処理施設。そして刻印<リミッター>(1)維持の為の食料、薬品の生産施設。アクヴィのウェルスもここで造られたのです。エリィ。ドミニアがなぜ貴方を憎むのか。その答えがここです。彼女の祖国エルルの人々は、その能力の特異性故、M計画つまり、ウェルスの母体とされていた。エーリッヒ卿は以前この施設の総括官であり、ニコラと共に研究に携わっていました。もちろん、常に良心の呵責に悩まされていた。だから出来うる限り集められた地上人を3級市民として保護し、そして身を退いたのです」

ショックを受けるエリィとフェイを促し、シタンは先へ進んだ。


工場を抜けると、建物の雰囲気は研究所のそれへと変わった。奥へ進むにつれ、様々な施設を彼らは見る事になる。人をウェルスへと変える現場、ウェルスに変えられた人々が入れられている檻、巨大なウェルスのサンプルの保管庫、メモリーキューブが集められた部屋。そしてある場所ではギア・バーラーまでをも発見した。

やがて彼らは、P4と表示された扉の前に来た。そのロックを難なく解除するシタン。

フェイは彼にこの施設について尋ねた。

「元々ここは、原初の刻より生き続ける御方、天帝を頂点とするガゼルの法院の延命研究の施設だった。原初の刻。つまり一万年前、地上にヒトが生まれた。その最初のヒトが天帝と12人のガゼルなのです」

「そんな……一万年も生きる人間なんて……

驚きを隠せないエリィ。

「もちろん、それは天帝一人。彼は死ねない運命にあるのです。だがガゼルの運命は違った。500年前の地上との戦争で、彼らは肉体を失ってしまったのです。現在ソラリスを統治してるガゼルは、メモリーバンク上に存在するデータ。肉体も魂もない単なる数字の羅列に過ぎない。崩壊の日(2)の後、肉体に固執する彼らは自らに相応しい肉体を創る為にソイレントシステムの一つをエテメンアンキに写した。その後、ここは民意統制用の薬品や生物兵器の研究にも使われるようになった。我々が何気なく使っていたメモリーキューブも、ガゼルの肉体復活の為に地上人のデータを収集する目的で設置されたものなのです。」

「さっきの工場で分解されてたウェルスたちも……

「使用済みの出し殻の再利用といったところでしょう」

思いもよらない話に、フェイたちはショックを隠せなかった。と、エリィが何かに気づいた。

「ちょっと待って。おかしいわ。なぜ先生がそんな事を知ってるんですか?そんな事、軍や政府の要人でも知らない事なのに。M計画の真相を当のマリアよりも詳しく知ってるなんて……

もっと早く気づくべきだった。先生……貴方は何者なんですか!?

その時、突然辺りが暗闇に閉ざされた。


気がつくとフェイは周囲をスクリーンに囲まれた部屋で拘束具をつけられていた。

スクリーンに研究室の寝台に寝かされたバルト達が映された。正面のスクリーンには、ガゼルの法院を背にしたシタンの姿が。ガゼルが語り出す。

「この男はソラリス守護天使が一人、ヒュウガ・リクドウ。天帝の命を受け、お前を監視していた。そしてお前に引き寄せられるであろう、我らが"アニムス"となりうる者を取捨選択、ここまで導いてきたのだ。"アニムス"は我らの復活に欠かせぬもの。この者たちは我らの肉体……拠り代。ただそれだけの存在……

フェイはシタンに問いかけた。

「本当なのか先生! こいつらの言ってることは!!」

「この三年間、私は貴方の傍にいた。見極めねばならなかった、我々の仇となるかどうかを……

「仇……?」

2人の会話をガゼルが遮った。

「お前は我らにとって危険な存在。もっとも、監視を命じたのは天帝だ。我々はお前の消去を目論んだが、悉く失敗した。それでも"アニムス"は手中に出来た。ヒュウガは良く働いてくれたよ」

「こいつらと組んで俺達を……。何が目的だ! お前達はこの世界を既に手中にしているはずだ!」

「我らが目的は神の復活。ヒトが地に満ちたとき、神とマハノンは目覚める」

「天空の楽園マハノン……。地に墜ちたと言う……?」

「我らの方舟……その中央ブロック"マハノン"。神の封印されし場所。そこは知恵の源。その知恵を使い、目覚めた神を復活させ、神と我らを大宇宙へと運ぶ"方舟"を建造するのだ」

「我らが大宇宙に君臨するための軍団、天使<マラーク>の創造。そのためのM計画……

「我々ヒトは、はるか昔、他の天体からこの惑星へ来た異星の生命体なのだ。我らは新たな"アニムス"を得、神と一つとなりて再び星空へと還る。これは原初より運命られし事。我々の存在意義そのものなのだ」

「我らは神より大宇宙に君臨する権利を与えられた。福音の劫までに神の復活がなされぬ場合、我らは滅びなければならぬ。だが、"アニムス"を得、我らの復活は約束された。後は神の復活と……

スクリーンにカレルレンの姿が映し出された。

「この者の目覚めを待つだけ……

そう呟く彼の背後には、寝台に寝かされたエリィがいた。


カレルレンの私研究室。

目を覚ましたエリィに、カレルレンは語りかけた。

「以前君が起した事件。原因はドライブによる力の暴走ではない。"君の中に眠るもう一人の君の一時的な目覚め"によって起こったことだ。

……これが何か解るかね。ナノマシンの一つ、アセンブラと言って、分子や原子を解体、再構築できる機械なのだ。ゼボイムで発見したあの娘を解析する事で、ここまで小さく精巧に作る事が出来た。従来のナノマシンでは、遺伝子の組み換えは行えても、二重螺旋の空隙部分イントロンに隠された情報まではわからなかった。しかし、新しいナノマシンは、容易くそれを見つけてくれた。本来あるべきではない情報をね。まもなくその結果が出る」

彼のデスクのスクリーンに解析結果が表示された。

「ふむ。確かに類似波形を描いている。そして……おお、ウロボロス環!やはりそうか、これでミァン、そしてラカンの動き……全て説明が付く。エレハイム(エリィ)……君が""だったのだな」

「母……?」

「これは君の遺伝子の、エクソン置換前の空隙……。本来は情報の存在し得ないイントロンを概念化したものだ。この環は、"ある特別な存在"にしか存在し得ない情報だ。ウロボロス大母とも言われるこの概念の蛇が、自ら銜えたその尾を放せばどうなるか……君は興味がないか?」

無言を貫くエリィ。カレルレンは続けた。

「エレハイム、君は美しい。"あの頃"と少しも変わっていない。"もう一人"ラカンと同様に」


1500年前の大戦後、地上人の反乱を恐れたガゼルがカレルレンの分子工学技術を用い、遺伝子レベルで人々に組み込まれた精神と肉体の抑制装置。ソラリス人にも組み込まれている。


2500年前の大戦末期、突然現れたディアボロスと言う謎の第三勢力によって、地上、ソラリスの区別なく世界の人口は98%が失われた。その出来事を後に人々がこう呼んだ。

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ep47 脱出! 誰がために君は泣く

フェイの拘束されている部屋にシタンが入ってきた。シタンに怒りをぶつけるフェイ。だが拘束具は彼の神経の伝達を物理的に止めているため、彼は身動き一つ取れなかった。

シタンは、フェイを言葉で責め続けた。

「青臭い理想論など、現実の前では意味を成しません。事実、多くの人はそれを満足としているではないですか。与えられた居場所ならば、自分はそのリスクを背負わなくていい。たとえうまくいかなくても、その責任を転嫁できるんです。

人がなぜ個々人ではなく、集団、国家といったより大きなものに依存するのがわかりますか?人には寄る辺が必要なんですよ。自分が自分自身である為のね。それが強固であればある程よしとされる。

ガゼルの法院はその寄る辺を与えてくれるのです。絶対的な管理者の下でならば、人は個人を保とうとするリスクを背負う必要はない。自分は『一個の人間だ』という幻想だけ持って生きていける。なんと楽な事じゃないですか。事実は事実。受け入れましょう。その方が気が楽です。抵抗したところで虚しいだけです。辛いだけです。

それでもまだ何かしようというんですか?あなたのその姿を見てごらんなさい

この期におよんでどうするというんです?身動きをとることすらままならない。共に戦い、あなたを必要としてくれていた友も守れない。あなたにとって大切なエリィさえも守れない。あなたにはどうすることも出来ないんだ。」

「やめろ……やめて……くれ……

やがてフェイが静かになった。それを確認したシタンは、ため息混じりに言った。

「これでゆっくり話が出来ますね……イド


カレルレンの私研究室。寝台に拘束されたエリィは、一人考え込んでいた。

そこへラムサスが入ってきた。彼は狂気に犯された目で、エリィにフェイの居場所を詰問した。

その答えが得られぬうちに、彼は目を爛々と光らせ「フェイめ見ていろ」そう言って部屋を出て行った。


フェイが拘束されていた部屋。拘束を解かれたフェイが目を覚ますと、シタンとバルトたちがいた。

シタンに殴りかかろうとするフェイを押しとどめ、バルトが事情を説明した。

バルトたちの体に刻まれたリミッター。それを外すため、シタンは現時点で唯一処置が可能なこの研究所に彼らを連れてきたかったのだという。さらにソラリスが何をしているのか、何をしようとしているのかをフェイたちは知るべきと考えたのだ。それ以外にもう一つ目的があったのだが、それは後々という事になった。

ともかく、彼らは行動を開始した。フェイたちはエリィを救出に、シタンは最後のゲートの破壊に向かった。


フェイたちが首尾よくエリィを連れ出した頃、シタンはゲート・ジェネレーターでジェシーと合流した。

彼らが爆薬を仕掛け終わる頃、ラムサスが彼らの下に現れた。

「貴様もこの俺を裏切るというのか。」

彼はそう言った。シタンは返す。

「カール、私と貴方では立つ場所が違うだけです。裏切ったわけではありません。私はフェイ達といようとそう決めたのです」

「フェイだと!き、貴様もフェイか!奴を貴様も奴を。許さん!許さんぞ!」

言動はあきらかにおかしくなりつつあるラムサス。ジェシーも異変を感じ取っていた。

「カール、敵同士とはいえ、小僧っ子1人に何故そこまで執着する!?昔のオメェはそんなじゃなかったぜ!」

「黙れっ!奴だけはこの手で。その奴の下に行こうとする貴様等は敵だっ!俺のものを奪う敵だっ!敵だっ!!敵だっ!!敵だっ!!」

「お、おい、行くぜ!何があったか知らねぇが、奴に構っている暇はねぇ!」

ラムサスの異常な言動に呆れたジェシーは、シタンを促してその場を去った。爆薬がジェネレーターに火をつけた。

「この裏切り者ぉっ!!」

火に巻かれながら、ラムサスは絶叫した。


ソラリスを脱出するため、フェイたちは格納庫に向かっていた。ハマーが連れてきたメディーナも、一行に同行している。エーリッヒは一足先に脱出手段を確保するために格納庫に向かった。

合流ポイントになっている格納庫前の陸橋。そこで合流した彼らは格納庫へ向かおうとした。

だが、エリィの悲鳴が彼らの足を止めた。ハマーがエリィを羽交い絞めにして銃を突きつけていた。

「エリィさんは戻ってもらうっす!カレルレンって人と約束したっすよ、エリィさんを連れて行けば"変えないで"くれるって……

「ハマー!てめえ!」

突然の行動にリコが吼えた。

「俺っちだってホントはこんな事したくないっす。でも、俺っちは"普通"の人間なんっす!フェイの兄貴たちみたいに"特別"じゃないんす!こうするしかないんすよ!」

泣き顔でそうまくし立てるハマーに、メディーナが歩み寄った。

「動いちゃダメっす!止まるっすよ!」

「止まりません。わが子の危機ですもの。私はごく"普通"の母親ですから。"普通"だからこそ、守らなければならないものがあるんです。さ、エリィ、ゆっくりとこっちにいらっしゃい」

「ダメっす!行っちゃあダメっす……行っちゃ……ダメっすよぉ……

彼の銃が火を噴いた。メディーナがゆっくりと倒れていく。ハマーが悲鳴を上げて逃げ出した。

エリィは、物言わぬ母をかき抱いき、泣いた。


その時、彼らの下にグラーフが現れた。その傍には、キスレブに現れた覆面の女がいた。

「その女は置いていってもらうぞ」

そう言ってにじり寄ってくるグラーフ。しかし、そこへエーリッヒがギアに乗って現れた。

エリィたちの盾になろうとするエーリッヒ。だが、覆面の女のエーテルが彼のギアに強大な圧力を掛けた。

「エリィ、自分の信じた道を行け!お前はなんと言おうと、私とメディーナの間に生まれた子だ」

彼のギアが圧壊した。目の前で両親を殺された怒りで、エリィのエーテルが噴出する。

だがその力も覆面の女のエーテルに押し戻されてしまう。強大なエーテル波がエリィたちを襲う。

その中でフェイだけがエーテルを物ともせずにいた。しかし彼はそれまでのフェイではなかった。

髪が見る間に赤く染まり、彼はあの赤い長髪の男、イドに変異した。


その頃、ユグドラシルでも異変が起こっていた。ヴェルトールが独りでに起動したのだ。突如動き出したヴェルトールは、その外装をパージ。変形させ赤く染まって行った。それはまさしくアヴェの砂漠でユグドラシルを沈めた、あの真紅のギアだった。真の姿を現したヴェルトールはユグドラシルの隔壁を突き破って飛び出し、瞬く間にソラリスのイドの下へ到達した。


ソラリスの首都、エテメンアンキがたった一機のギアによって破壊され、墜とされる。

その光景を、シタンたちはユグドラシルから見ていた。爆発に巻き込まれまいと全速離脱するユグドラシルに、ヴェルトールが迫ってきた。バルトたちが混乱する中、エリィは一人ヴィエルジェで迎撃に出た。

「フフ……お前か。殺されにきたのか?」

「それで貴方の気が済むならそうすればいい」

ヴェルトールの拳がヴィエルジェの腹部を貫いた。エリィはその手を握り締め、叫んだ。

「お願い! 元のフェイに戻って!」

イドとエリィ、二人のエーテルがぶつかり合い、凄まじい波動が放たれた。

「チッ……こいつ…… う………… クソッ……ヤツが目覚めた……


カイン「アーネンエルベ……なせるというのか?」

シタン「もはや管理者は不要だと結論します」

カイン「接触……仇とならぬと?」

シタン「陛下の仰るとおり、フェイがそうであるならば」

カイン「……ならば託そう……


シェバト。女王の間に集まったエリィたちに、シタンが事情を説明していた。

"アーネンエルベ"……。この星に生まれた人々と共に新たな地平へと進む神の人。それは"接触"の運命。天帝はフェイをそう呼んでいました。理由までは教えてもらえませんでしたが」

ヤツは一体何者なんだ?、とバルトが問う。

「彼はフェイです。そしてイドでもある。エルルを破壊し、ユグドラシルを沈め、リコの部下を……。彼は多重人格なのです。私が彼の監視を始めて三年、イドの発露は見られませんでした。しかし、ラハンの事件をきっかけに、その後徐々に発露の回数と時間が多くなっていった。恐らくグラーフの影響でしょう。ラハンに来る前、彼はグラーフと共に暗殺者として行動を共にしていました。私は、イドが正体を知るため、先だってフェイが拘束された時、イドと話をしました」


「実に無力だ、貴方は。どうする事も出来ないんだ」

フェイが意識を失い、イドが現出する。

「よく分かってるじゃないか。さすがはシタン……いや、先生と呼んでいたか」

「会いたかったですよイド。ところで、フェイは今どうしています?」

"お前達の知っているフェイ"は、俺が出ている間は寝ているよ。だから俺の事は何も知らない。ヤツは俺の支配下にあるからな。俺の記憶を見ることは出来ない。元々ヤツは存在しないフェイ。父親のカーンによって作り出された人格さ。三年前、カーンは俺の人格を深層意識に封印した。その時にできたのがヤツだ。臆病者の部屋の間借り人さ」

「臆病者とは?」

「本来のフェイ。出来損ないさ。現実から逃げ出し、生きる事を拒絶した情けない奴。虫唾が走るぜ」

「なぜ貴方の心は分かれてしまったんですか?」

「思い出話でもしろってのか? 勘違いするな。俺はお前に質問の機会など与えてない。俺がその気になれば、こんな拘束なぞいつでもぶちやぶれるぞ」

「しかし出来ないでしょう。貴方はフェイを完全には制御できていない。もしエネルギーを使えば精神的に疲労し、フェイにステージを奪われてしまう。違いますか?」

……よく解ってるじゃないか。確かに俺は……むっ……

「どうしました?」

「貴様に無理やり出されたからヤツが目覚めた。本来なら俺は自分でステージに立てるんだ。だが、あの女、エリィのせいでそれが果たせない。あの女は……みんな同じだ……だから消してやる


「現在のフェイの人格は、イドと言う基礎人格の上に3年前に創られた、下層の模擬人格。だから、彼にはそれ以前の記憶が無かったんです。さらに、現実の生活を3年しか経験していない彼は未発達で、そのため突発的な出来事に対処しきれなくなる」

「フェイはいつかイドに飲み込まれちまうのか?」

「どうでしょうか。イドが臆病者と呼ぶ、本来のフェイの人格がネックになると思います。イドはその人格を軽蔑しつつ、明らかに恐れていた。イドの表出はフェイではなく、臆病者によって抑制されているのではないかと。なぜ臆病者が表出しないのか原因はわかりませんが、これが目覚めれば、分離した人格が元に戻る可能性も出るのではと、私は確信したのです。どうすれば目覚めるのか、それは解りません。ですが、基本的にフェイの存在が虚ろになるような事がなければ、フェイはフェイでいられる訳です。平穏な場所で暮らせるのが一番ですが、状況がそれを許さないでしょうね……


その後、シェバトではフェイの処遇を決める会議が開かれた。シェバトの議会は、フェイの力を恐れた。

彼の力が500年前ディアボロスを率いて世界を崩壊させたグラーフの力と酷似していたからだ。

決議は下された。カーボナイト凍結。人を生きたまま石にする、シェバトの極刑だった。


その夜、エリィは投獄されたフェイに会いに行った。

「俺はかつて世界を壊滅させたグラーフの再来だそうだ。グラーフも元はラカンと言う地上人だって」

「そんなのでまかせよ! ……逃げよう? グラーフや戦いがイドを呼ぶなら、静かな所へ……

「ダメだ。戦場から離れたとしても、イドが出ない保証はない。それに……俺はエリィを殺そうと

「イドと戦った私が生きてるのは、多分、どこかでフェイの意識が働いて、すんでのところで外してくれたからだと思うの。……もし、あなたがイドに支配されて、世界中が敵になっても、私だけは、あなたの傍にいてあげる……。だってだって…… "一人じゃ寂しいものね"


二人が格納庫に向かうと、シタンたちが待っていた。彼らは、二人の脱出を助けに来たのだ。ヴィエルジェが修理中の為、シェバトのギア・バーラーを拝借しようと言うフェイだったが、エリィは激しく拒んだ。結局、二人はヴェルトールに相乗りする事になった。


朝陽を浴びて飛ぶヴェルトールに、ラムサスのギアが襲い掛かった。カレルレンにより与えられたギア・バーラーだった。エリィの奪還。それがラムサスの目的のはずだった。しかし、バーラーの凄まじい力に陶酔した彼は、エリィごとヴェルトールを撃墜してしまった。


ヴェルトールの墜ちた森。重傷を負ったエリィを抱えて歩くフェイを、グラーフは静かに見ていた。

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ep45 孤独な狼 闇の底をかける

エリィの家を出た後、フェイは第2級市民層の監視塔へ向かった。そこではシタンが待っていた。

彼はあの観艦式を映像で見て、フェイの行動を推測し先回りしていたのだ。

二人はシタンのIDを使って監視塔を抜け、第3級市民層へ向かった。


その頃、エリィは家を抜け出そうとしていた。メディーナとエーリッヒはそんな娘に語りかけた。

「貴方の思うようになさい。それと、貴方はまぎれもなく私の子よ」

「私のIDカードを持って行け。自分の選んだ道を歩く……それは、人の本来の姿なのだ……

二人に別れを告げ、エリィが家を出ようとした時、帝室警備隊が彼らの家に現れた。

軍警よりも遥かに地位の高い警備隊が来た事で、エーリッヒはエリィがガゼルの被験体にされるのだと知った。

彼は3級市民への降格を覚悟で警備隊に反抗、エリィを逃がした。

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